AI概要
【事案の概要】 本件は、パチンコ機に関する特許出願について、特許庁が拒絶査定不服審判において「本件審判の請求は成り立たない」との審決をしたことに対し、出願人である原告(パチンコ機メーカー)が同審決の取消しを求めた事案である。 原告は、発明の名称を「パチンコ機」とする特許出願をしたが、拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を請求するとともに特許請求の範囲等について手続補正を繰り返した。しかし特許庁は、本願発明は、本願出願日前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明(引用発明)及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの審決を下した。 本願発明は、遊技領域に、遊技球が特別電動役物(大入賞口を開閉する装置)へ向かう2つのルートを設け、一方のルートは遊技領域の主に左側に、他方のルートは主に右側に配置し、各ルートを流下する遊技球をそれぞれ第1・第2遊技球検知センサで検知するパチンコ機である。さらに、推奨ルート報知手段を備え、遊技球が一方のルートを流下中に第1センサが所定個数の遊技球を検知した後、他方のルートを推奨ルートとして遊技者に報知する(請求項1)、あるいはその逆方向の報知を行う(請求項2=本願発明)構成を特徴とする。発明の目的は、推奨する遊技球のルートを遊技者が容易に打ち分けることができ、遊技性を向上させることにある。 これに対し引用発明(引用例1)は、遊技球滞留部(多数の釘により流下時間が長くなる領域)と遊技球流下部(流下時間が短い領域)を左右に設け、大入賞口開放の10秒前に予告ランプを点灯させて遊技者に滞留部を狙わせ、5秒前にもう一方のランプを点灯させて流下部を狙わせることで、大入賞口開放時に両方からの遊技球を合流させて大量入賞を狙わせる技術である。 【争点】 本願発明の進歩性判断の当否、特に引用発明に引用例2記載の事項を適用して相違点2(各ルートを流下する遊技球を検知するセンサと推奨ルート報知手段の具備)及び相違点3(他方のルートを流下中に第2センサが所定個数の遊技球を検知した後に一方のルートを推奨する構成)に係る本願発明の構成とすることが当業者にとって容易であったか否かが中心的な争点となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を認容し、本件審決を取り消した。 裁判所はまず、引用例2に相違点2及び3に係る本願発明の構成に相当する構成の記載があること自体は認めた。すなわち、引用例2記載の「第1始動口検出スイッチ」は一方のルートを流下する遊技球の一部を検知するセンサに当たり、「サブCPU」が普通図柄ゲートの通過回数を3回以上計数した後に左打ちを促す報知を行う構成は、本願発明の「所定個数」の遊技球を検知した後に一方のルートを推奨する構成に相当すると判断した。 しかし裁判所は、引用発明と引用例2記載の遊技機との間で、報知の目的及びタイミングが根本的に異なる点を重視した。引用発明は、大入賞口開放までの特定の時間を報知装置により予告することで、時間経過に応じて2つのルートを順次打ち分けさせ、大入賞口への大量入賞を狙わせる技術である。これに対し引用例2は、遊技者が正しい方向に発射しているにもかかわらず、たまたま少量の遊技球が誤った方向に流下した場合でも、それを誤差として判定し、誤った方向への発射を促す報知を行わないようにして、遊技者の煩わしさや不快感を解消することを目的とする技術である。 このように、両者は共に複数ルートのうち有利なルートへの発射を促す報知を行う点で技術分野は共通するものの、報知の目的及びタイミングが異なっており、かつ引用発明に引用例2記載の構成をどのように適用すべきかを当業者が具体的に想到することは容易でない。したがって、両者を組み合わせる動機付けを認めることはできず、本願発明の進歩性を否定した審決の判断には誤りがあるとして、原告主張の取消事由に理由があると結論付けた。 本判決は、複数の引用文献を組み合わせた進歩性否定判断において、技術分野の共通性だけでなく、各文献に開示された技術の目的・機能・作用効果の相違を丁寧に検討し、組合せの動機付けを厳格に判断した事例として実務上参考になる。