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知財

審決取消請求事件

判決データ

事件番号
平成30行ケ10134
事件名
審決取消請求事件
裁判所
知的財産高等裁判所
裁判年月日
2019年6月27日
裁判官
森義之佐野信熊谷大輔

AI概要

【事案の概要】 本件は、ドイツの化学メーカーであるメルク社が保有する液晶媒体に関する特許(特許第4623924号)について、株式会社J・エヌ・シー(被告)が特許無効審判を請求したところ、特許庁が平成30年5月に請求項1、2、7、8に係る発明を無効とする審決を下したため、特許権者であるメルク社(原告)がその取消しを求めた審決取消訴訟である。 本件特許は、液晶ディスプレイに用いる液晶媒体に関するものであり、「正または負の誘電異方性を有する極性化合物の混合物に基づく液晶媒体」であって、一般式Iで表される特定の液晶化合物(末端にCH3基を有し、他方の末端X基には様々な置換基が選択可能なもの)を含むことを特徴とする。本件明細書は、従来技術の欠点として、極めて高い比抵抗値、高い透明点または大きい動作温度範囲、低い回転粘度または低温での短い応答時間、低いしきい値電圧の4点(本件4点)を挙げ、これらの欠点を解消することを発明の目的として掲げ、その目的は末端極性基および末端CH3基を有する液晶化合物を用いることで達成され、弾性定数K1の減少により低いしきい値電圧が得られると記載していた。 問題となったのは、本件発明の特許請求の範囲が「正または負の誘電異方性を有する」液晶媒体と規定されていたため、正の誘電異方性を示すp型液晶のみならず、負の誘電異方性を示すn型液晶も含む点にあった。特許庁は、本件明細書の実施例にはp型液晶化合物のみが開示され、n型液晶化合物を用いた実施例は存在せず、しかもp型とn型ではしきい値電圧とK1との関連性が異なるため、特許請求の範囲がサポート要件(特許法36条6項1号)を満たしていないと判断した。 【争点】 主たる争点は、本件発明の特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えていないかというサポート要件の判断の当否である。特に、本件明細書がn型液晶化合物を用いた場合にも本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できる程度に開示しているかが争われた。併せて、審決の予告後に被告から新たな証拠が提出されながら原告に反論の機会が与えられなかったことが手続違背に当たるかも争われた。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。 まず、本件発明の課題について、本件明細書の記載からすれば、従来技術の欠点である本件4点をすべて改善したディスプレイ用液晶媒体を提供することが課題であり、とりわけ弾性定数K1の減少を通じた低いしきい値電圧の実現に重点が置かれていると認定した。原告は「K1の減少自体が課題であり、しきい値電圧の低下は付随的効果にすぎない」と主張したが、裁判所は、液晶媒体はディスプレイに使用されて初めて意義を有するものであり、K1の減少がディスプレイ性能にもたらす効果として本件明細書に記載されているのはしきい値電圧の低下のみであることから、しきい値電圧の低減こそが発明の課題であると判断した。 次に、本件特許の優先日当時の技術常識として、p型液晶化合物を用いたディスプレイではしきい値電圧がK1と連動するが、n型液晶化合物を用いたディスプレイ(VA方式等)ではしきい値電圧はK3と連動し、K1とは連動しないことが周知であったと認定した。そのため、本件明細書はp型液晶化合物を用いたディスプレイを前提としたものと解され、実施例もすべてp型液晶化合物を含むもののみであることからも、この理解が裏付けられるとした。 原告は、甲58グラフ等を根拠にK1とK2が連動する傾向があり、IPSディスプレイでもK1の減少によりしきい値電圧を低下させられると主張したが、裁判所はグラフの具体的数値を検討してK1とK2の連動性を認めず、原告が追加提出した実験報告書(甲54、甲59、甲90の各実験)についても、本件明細書にn型液晶化合物を用いたディスプレイでの課題解決が記載されておらず、これが出願時の技術常識であったとも認められない以上、サポート要件の判断において参酌することはできないとした。 以上から、本件発明の特許請求の範囲はn型液晶化合物を含む液晶媒体に及んでいるが、本件明細書にはこれらについて発明の課題を解決できると当業者が認識できる記載がないため、サポート要件を満たさないと結論づけた。 手続違背の主張についても、審決の予告後に被告から新たな証拠が提出されたとしても、それが改めて審決の予告をすべき場合に該当するとはいえず、反論の機会を与えるか否かは審判官の裁量に属するとして排斥した。 本判決は、化学分野の特許におけるサポート要件の判断について、特許請求の範囲に形式的に含まれていても明細書が前提としていない技術領域(本件ではn型液晶)には出願人の開示の成果が及ばないことを明確にした事例として、化学・材料分野の特許実務に重要な指針を示すものである。

※ この概要はAIが判決全文をもとに自動生成したものです。内容の正確性には十分注意していますが、誤りが含まれる可能性があります。正確な内容は原文をご確認ください。
判例データの一部は CaseLaw LOD(国立情報学研究所、CC BY 4.0)を利用しています。