損害賠償請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成31ネ345
- 事件名
- 損害賠償請求控訴事件
- 裁判所
- 大阪高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年6月27日
- 裁判種別・結果
- 棄却
- 裁判官
- 中本敏嗣、橋詰均、三島恭子
- 原審裁判所
- 大阪地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 控訴人aは、同居する養女A子(当時11歳および14歳)に対する強姦・強制わいせつ罪の容疑で平成20年に逮捕・起訴され、平成21年に大阪地裁で懲役12年の有罪判決を受け、控訴・上告審を経て有罪が確定した。しかし一審判決から5年余り経過後、A子およびその兄B男の供述が虚偽であったことが明らかになったとして控訴人aは再審を請求し、平成27年に大阪地裁で再審無罪判決を受けて確定した。再審では、捜査段階で入手されていなかったA子の産婦人科カルテ(処女膜に損傷がない旨の記載)が決定的な新証拠として扱われ、A子・B男の供述の信用性が大きく揺らいだ。 控訴人aと妻である控訴人bは、警察官、検察官、裁判官による一連の行為に違法があり共同不法行為を構成するとして、国家賠償法1条1項に基づき合計1億4000万円超の損害賠償を請求した。さらに控訴人aは、再審開始手続において裁判所が検察官に命じた証拠一覧表の交付を検察官が拒否した行為が証拠一覧表を利用する権利を侵害するとして、300万円の慰謝料を求めた。原審(大阪地裁)はいずれの請求も棄却したため、控訴人らが控訴した。 【争点】 本件の中心的争点は、(1)警察官による捜査の違法性、(2)担当検察官g検事による公訴提起の違法性、特に処女膜に損傷がない旨記載されたカルテ(本件カルテ)が通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料に当たるか、A子・B男・控訴人aの各供述の信用性に関する検察官の判断に不合理な点がなかったか、(3)公判検事による公訴維持および勾留継続の違法性、(4)裁判所による判決の違法性、(5)再審開始手続における検察官の証拠一覧表交付拒否行為の違法性である。国家賠償法上の違法は、結果として無罪判決が確定したことのみでは足りず、当該処分時の証拠資料を前提に合理的判断過程を経たか否かで判断される(芦別事件最判の枠組み)ことが前提となっている。 【判旨】 大阪高裁は控訴を棄却した。検察官の公訴提起については、g検事がA子・B男の供述を複数回の取調べで検討し信用性に疑問を差し挟む事情が見当たらないと判断し、産婦人科医m医師による「処女膜裂傷」との診断書を入手してA子の性交経験を裏付けたと考え、他方で控訴人aが主張する糖尿病由来のインポテンツについてはo診療所長およびp医師への照会により虚偽と判断した経過をたどり、これら一連の捜査判断に合理性が認められるとした。本件カルテについては、g検事が既に警察官を通じて別の産婦人科医m医師に診察を手配済みであり、cが別の産婦人科を受診させたことを聴取した時点で処女膜裂傷の有無確認目的とは考えていなかったことから、通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠とはいえないと判断した。本件診断書の「処女膜裂傷」記載についても陳旧性裂傷を含むと理解したことは当時として不合理でないとした。公判検事による公訴維持・勾留継続、担当裁判所の判決行為、再審における証拠一覧表交付拒否行為のいずれについても国家賠償法上の違法は認められないとし、結論として原判決を維持した。再審で無罪が確定した冤罪事案であっても、捜査・公訴・裁判の各段階の行為を違法と評価するには当時の証拠状況を前提とした合理性の欠如が必要であることを改めて示した判断である。