AI概要
【事案の概要】 本件は、被告学校法人が設置・運営する高等学校の常勤講師として勤務していた原告(女性)が、同校の分室長であった被告A2から平成24年4月から同年7月までの間に複数回にわたりセクシュアル・ハラスメント(キス、身体への接触、最終的には生理中の性交渉)を受け、うつ病・PTSD・解離性障害等にり患したと主張して、被告A2に対しては不法行為に基づく損害賠償、被告学校法人に対しては使用者責任に基づく損害賠償として、連帯して7067万1306円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 原告は、平成23年4月に1年の有期雇用で常勤講師として採用され、平成24年4月に契約更新を受けていた。被告A2は、原告に対し、常勤講師から専任講師(教諭)への登用や夏期賞与の特別支給を示唆しながら、職場内外で身体的接触を重ね、平成24年7月11日には出張の帰途ラブホテルに原告を連れ込んで性的行為に及んだ。原告はICレコーダーで会話を録音した上で警察に相談し、犯罪被害者相談も行った。 原告は、幼少期に父親からの性的暴行等の被害を受けた経験があり、大学・大学院時代には複数の精神科を受診して適応障害、境界性人格障害、うつ状態等と診断された既往があったが、平成22年11月以降本件行為直前の平成24年5月までの約1年半は精神科の受診歴がなかった。本件行為後、原告はうつ病・PTSD等の診断を受け、労災保険法上の後遺障害等級5級の1の2(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)の認定を受けた。 【争点】 (1)セクハラ行為の有無及び違法性、(2)原告の精神症状と本件各行為との相当因果関係及び後遺障害の程度、(3)賠償すべき損害額(既往症・素因による減額の可否を含む)、(4)被告学校法人の使用者責任における免責事由の有無が争点となった。被告A2は性交渉について原告の同意があったと主張し、被告学校法人は幼少期からのトラウマが現症状の主因であるから相当因果関係がない又は素因減額すべきと主張した。 【判旨】 京都地裁は、原告の供述が本件直後に恩師・弁護士に相談していた内容と整合すること、性的被害者が心理的まひ状態に陥り同意を示すかのように見える場合があることを踏まえ、原告の供述を信用でき、被告A2が職場上の優越的地位に乗じて原告の意に反する性的接触・性交渉を強要したと認定し、本件各行為は原告の性的自由・人格権を侵害する不法行為に該当すると判示した。 因果関係については、本件行為前約1年半にわたり精神科受診歴がなかったこと及び行為の性質からすれば、うつ病・不安障害・適応障害のみならずPTSD・解離性障害との間にも相当因果関係があると認めた。もっとも、原告が本件後も多数回の国内外旅行(単独での渡米を含む)やファンイベントの主催を行っていた事実に照らし、後遺障害の程度は原告主張の5級ではなく第9級相当と認定した。 損害額については、治療費については交通事故訴訟の長期化もうつ病増悪の一因となったとして半額に制限し、休業損害は症状固定日までではなく後遺障害等級が変動した時期までに限定して算定した。さらに、幼少期の性的虐待等の素因が現症状悪化の重大な要因となっていることから、民法722条2項の類推適用により4割の素因減額を行った。 被告学校法人の免責については、京都校にセクハラ相談窓口が設置されていなかったこと等から、使用者として事業の監督について相当の注意をしたとは認められないとして免責を否定した。 結論として、被告らに対し連帯して594万4227円(過失相殺・損益相殺後の損害540万4227円+弁護士費用54万円)及び平成24年7月11日からの年5分の遅延損害金の支払を命じた。職場における上司からのセクハラについて、被害者の心理的まひ状態を踏まえて供述の信用性を認めつつ、既往の精神疾患を素因減額として4割考慮した点に特徴がある判決である。