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【事案の概要】 被告人は、兵庫県川西市選挙管理委員会事務局主幹として、平成29年10月22日実施の衆議院議員総選挙の準備に従事していた。同年9月19日から10月20日までの間、休日を含めて連日出勤し、残業時間は229時間、総労働時間は407時間を超過するという過酷な勤務状況にあった。小選挙区の区割り変更も重なり、業務量が大幅に増大していた。 本件事故は、平成29年10月21日午後4時50分頃、兵庫県川西市内の道路において発生した。被告人は普通貨物自動車を運転して南から北へ走行中、眠気を感じ、かつ睡眠不足の状態にあったにもかかわらず、運転を中止して眠気を覚ます措置を講じることなく時速約50ないし60キロメートルで運転を継続した。その結果、仮睡状態に陥り、自車を対向車線に進出させ、折から対向してきたA(当時66歳)運転の貨物自動車前部に衝突。その衝撃で自車が回転し、さらに後続のB運転の乗用自動車にも衝突した。 この事故により、Aは右下肢切断等の傷害を負い失血死し、A車同乗者のDは加療約3か月を要する横行結腸損傷等の重傷、B及びその同乗者2名もそれぞれ加療9日ないし約2週間の傷害を負うという、5名が死傷する重大な結果が生じた。 【争点】 被告人が運転中に仮睡状態(居眠り)に陥ったと認定できるかが争点となった。弁護人は、被告人は「失神」または「神経調節性失神」により意識を消失したのであって、仮睡状態に陥ったとの事実は認められないと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、まず事実認定の点について、被告人が連日長時間の残業を強いられる過労状態にあったこと、本件車両が衝突の約1分20秒前から車線内を左右に揺動し不安定な走行をしていたこと、事故直後に被告人自身が警察官に対し「仕事の疲れからぼーっとして対向車線にはみ出した」旨供述していたこと、実況見分時にも眠気を感じた旨述べていたこと、診察した2名の医師も、居眠り運転の可能性を排除した上で失神を診断したに過ぎず、失神を裏付ける疾病・器質的異常や前駆症状は認められなかったことなどを総合し、本件事故は被告人が仮睡状態に陥ったことにより発生したと認定し、弁護人の主張を排斥した。 量刑について裁判所は、仮睡状態で対向車線に進出する運転は極めて危険であり、落ち度のない5名を死傷させ、なかでも被害者1名は生命を奪われ、別の被害者は複数回の手術を要する重傷を負って生活に深刻な悪影響を受けているなど、結果は取り返しがつかないものとした。他方、選挙管理委員会の過酷な勤務実態が居眠り運転の一要因となったことは容易に想像でき、遺族や一部被害者も使用者にこそ責任があると述べていることは酌量すべきである。しかし、道路交通法66条が過労運転の禁止を定めている趣旨に照らせば、疲労を自覚していた被告人には適宜休憩を取るなどして居眠り運転を回避することが十分可能であり、勤務実態が過失責任を大幅に軽減する理由にはならないと判断した。 一方、被告人が遺族・被害者に謝罪の手紙送付や直接の謝罪を行い、示談が成立し見舞金も支払われ、処罰感情が相当程度宥和されていること、被告人が真摯に反省していること、前科前歴がなく地方公務員として真面目に勤務してきたことなどの酌むべき事情も認められる。禁錮以上の刑に処せられると地方公務員の職を失う可能性があるが(川西市職員の分限に関する条例5条1項には失職猶予の特則がある)、これらを考慮してもなお罰金刑の選択は相当でないとして、求刑禁錮2年6月に対し、禁錮2年・執行猶予3年を言い渡した。