AI概要
【事案の概要】 本件は、集合住宅のサブリース契約を被告と締結した建物所有者(オーナー)ら合計多数の原告が、被告との間で別途締結した家具・家電総合メンテナンスサービス契約(以下「TMS契約」という。)の効力等を争った事案である。被告は、全国規模でサブリース事業を展開する不動産会社であり、オーナーから集合住宅を一括して借り上げ、入居者に転貸する事業形態を採る。賃貸物件は家具・家電付きを売りとしており、その保守・交換費用の負担が長年オーナー側にあった。 平成9年頃、オーナーを構成員とする共済会が設立され、建物修繕費用の相互扶助制度として運営されていたところ、平成15年頃には家具・家電の修繕・交換費用を扶助するファニチャーファンドが設けられ、1戸当たり月額2000円が積み立てられていた。その後、保険業法改正に伴い共済会が解散し、被告は平成20年からTSS契約(メンテナンス・リフォームトータルサポートシステム契約)を経て、平成22年10月からTMS契約へと制度を切り替えた。 TMS契約は、被告が家具・家電の点検・修理・コールセンター対応等の保守業務(建物賃貸借契約開始から原則7年間)と、その後のレンタル業務を担う代わりに、オーナーが1室当たり月額2000円(後に2056円)のサービス料を賃料から差引きにより支払う内容である。また、TSS契約から移行する際、オーナーが積み立てていた金員等を「特約金」として被告に移管し、清算は行われないものとされた(本件特約)。 原告らは、①レンタル業務が未履行であるとして差し引かれた金員相当の未払賃料、②TMS契約や本件特約が消費者契約法10条・民法90条違反、錯誤、解除条件成就、債務不履行解除等により無効又は効力を失ったとして、既払特約金の不当利得返還、③サービス料支払義務不存在の確認を求めた。 【争点】 主な争点は、原告ら(個人)が消費者契約法上の消費者に当たるか、TMS契約及び本件特約が民法90条等に違反し無効となるか、錯誤による無効の成否、相殺合意によるサービス料と賃料との相殺の可否、レンタル業務未履行を理由とする債務不履行解除の成否、本件特約に解除条件が付されていたか、その成就の有無である。 【判旨】 請求棄却。名古屋地裁は、原告らが個人であっても自ら不動産賃貸業を営む事業者であり、TMS契約は「事業のため」に締結されたものであるから、消費者契約法上の消費者には当たらないとした。したがって消費者契約法10条の適用はなく、民法90条違反の有無のみを検討すべきとした。 そのうえで、TMS契約における月額負担は従前の積立金と同額であり、当初の事業計画でも想定されていた費用負担にすぎず、被告には保守業務等の履行義務が新たに生じるなど、むしろオーナーに有利な面もあると判示した。税務上、特約金を前払費用として償却計上できる点もメリットと評価し、契約内容が一方的に不合理とは認めず、原告らの無知に乗じた契約とも認められないとして、民法90条違反を否定した。 錯誤については、特約金の帰属や清算の不存在は契約書・説明文書に明記され、原告らも契約書を確認の上で締結していたと認められ、要素の錯誤は成立しないとした。家具・家電の調達方法(購入かリースか)も契約の要素ではなく、錯誤無効の主張はいずれも退けられた。 相殺合意については、サービス料は保守業務をも含めた対価であるから、レンタル業務未移行の物件でも請求権は失われず、賃料債権との相殺は有効と判断した。解除の主張についても、被告提出の交換履歴データは信用でき、実際に多くの物件で家具・家電の交換が行われており、リース調達による履行も契約に反しないとして、債務不履行は認められないとした。 さらに、本件特約に「レンタル業務期間移行時に交換を行わないことを解除条件とする合意」があったとする原告らの主張についても、契約文言上そのような規定は存在せず、保守業務期間中もサービスが行われる契約構造に照らして解除条件の合意は認められないとし、解除条件成就の争点は判断を要しないとした。 本判決は、サブリース業者とオーナーとの間で広く用いられる家具・家電保守サービス契約の有効性について、オーナーの事業者性を前提に契約内容の合理性を肯定した事例であり、同種サブリース関連紛争における先例的意義を有する。