不当利得返還請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成31ネ10010
- 事件名
- 不当利得返還請求控訴事件
- 裁判所
- 知的財産高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年7月10日
- 裁判官
- 高部眞規子、小林康彦、関根澄子
- 原審裁判所
- 大阪地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、「導光板および導光板アセンブリ」という名称の発明に係る特許権(特許第2865618号)を有する控訴人が、被控訴人(Amazon.com Int'l Sales, Inc.)が販売する電子書籍リーダーに搭載されたライトガイドが同特許権の技術的範囲に属するとして、民法703条の不当利得返還請求権に基づき、実施料相当額の一部として150万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 本件特許発明は、液晶表示装置のバックライトなどに用いられる導光板に関するものであり、透明な板状体の裏面に設けた回折格子により光を表面側へ回折させ、従来のプリズム方式より均一で高輝度な照明を得ることを目的とするものである。具体的には、板状体の裏面に光の波長に近い微細な刻線溝(回折格子)を加工し、光源から離れるほど回折効率が高まるよう格子部幅と非格子部幅の比を変化させる点に特徴がある。 被告製品は、電子書籍リーダーの画面を照らすフロントライト用のライトガイドを備え、200μm四方の単位ピクセル内にナノインプリントで微細構造体を多数形成し、光源から離れるほど単位ピクセル内の微細構造体の面積が増大する構造を採っていた。 原審(大阪地判)は均等論の第1要件(非本質的部分)の充足を否定して請求を棄却したため、控訴人は控訴を提起するとともに、当審で新たに文言侵害の主張も追加した。 【争点】 争点は、①被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(文言侵害および均等侵害の成否)、②本件特許が特許法29条の2違反等により無効にされるべきものか、③控訴人の損失及び被控訴人の利得の額である。文言侵害の主張を当審で追加することの可否(自白の拘束力、時機に後れた攻撃方法該当性)も争われた。 【判旨】 知財高裁は、控訴を棄却した。 まず、文言侵害の主張追加について、特許発明の技術的範囲に関する技術的事項の細部にわたる主張・認否は主要事実の自白とはならず、また当審での審理により訴訟の完結が遅延するとも認められないとして、民訴法157条1項による却下もしなかった。 本案の判断として、構成要件A「板状体の裏面に設けられた回折格子」の「裏面」とは、本件発明の課題・解決手段・効果に照らし、光源から発せられた光が進行して均一かつ高輝度を発揮する効果が生じる「照光面」の反対側の面をいうと解した。これを被告製品に当てはめると、ディスプレイを照らす側(下側)が表面であり、微細構造体は光の進行方向側すなわちライトガイドの「表面」に設けられていることになるから、構成要件Aを充足しない。 均等侵害についても、本件発明の本質的部分は、照光面の反対側の面に回折格子を設けて回折させるという回折機能の機序そのものにあり、被告製品はこの本質的部分を備えていないから、均等の第1要件(非本質的部分)を充足しない。 以上より、文言侵害・均等侵害のいずれも成立せず、特許無効抗弁の当否を判断するまでもなく、不当利得返還請求は理由がないとして控訴を棄却した。本判決は、均等論の第1要件における本質的部分の認定について、特許請求の範囲及び明細書の記載から、従来技術との比較を踏まえて技術的思想を構成する特徴的部分を確定する枠組みを改めて確認したものであり、実務的意義を有する。