特許法第1条の違反,及び,特許権侵害,慰謝料等被害請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、被告日本製鉄の関連会社であり、後に被告日鉄テクノロジーに吸収合併された株式会社日鐵テクノリサーチ(テクノリサーチ社)に勤務していた原告が、被告らに対し、連帯して3000万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。原告は、テクノリサーチ社在勤中に船舶の傾斜測定装置に関する発明(別件発明)をし、別件発明に係る特許を受ける権利が原告に帰属することの確認を求める訴え(別件訴訟1)などを提起したが、いずれも請求棄却・訴え却下で確定していた。その後、原告は自ら「船舶の両舷ドラフト差測定装置」に関する発明について特許権(本件特許権)を取得した。これに対し、被告らが本件特許について特許異議の申立てを行い、特許庁は請求項の一部削除と訂正を認めた上で、訂正後の請求項に係る特許を維持する決定をした。本件訴訟において原告は、①被告日本製鉄が使用・販売する傾斜測定装置が本件特許権を侵害しており、テクノリサーチ社はその侵害の原因行為をした、②被告日本製鉄及びテクノリサーチ社は別件訴訟1で原告の職務を偽り、職務発明との誤った判断を裁判所にさせた、適切な内容で特許出願せず別件拒絶査定を意図的に確定させた、③被告らは理由がないことを知りながら本件異議申立てをしたなどと主張し、不法行為に基づく損害賠償を請求した。 【争点】 争点は、(1)被告らによる本件特許権侵害の有無及び損害、(2)別件訴訟での虚偽主張、特許権の無断譲渡、意図的な拒絶査定確定、共同発明者の偽り、本件異議申立てといった一連の行為による不法行為の成否である。特に、確定した別件判決の既判力との関係で、同判決の成立過程における相手方の行為を理由とする損害賠償請求が許されるかが重要な争点となった。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。特許権侵害については、別件発明と本件訂正後発明は異なる発明特定事項を有しており、仮に被告装置が別件発明の技術的範囲に属するとしても、直ちに本件訂正後発明の技術的範囲に属するとはいえないと判断した。原告提出の証拠(写真等)によっても被告装置の具体的構成は明らかでなく、被告日本製鉄が本件特許の設定登録後に本件訂正後発明の技術的範囲に属する装置を使用・販売している事実は認められないとした。別件訴訟での虚偽主張等を理由とする不法行為主張については、確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求は、当事者の一方が虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正行為により本来あり得べからざる内容の確定判決を取得・執行し、その行為が著しく正義に反し法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ない特別の事情がある場合に限り許されるとの最高裁判例(昭和44年7月8日第三小法廷判決等)を引用し、本件ではかかる特別の事情は認められないとした。テクノリサーチ社による特許を受ける権利の譲渡についても、同社の発明考案規定が従業員の合意を要求するものとは認められないとして不法行為を否定した。本件異議申立てについても、実際に特許庁が請求項1及び3に係る特許は特許法29条2項に違反するとの取消理由を通知し、原告自身がこれを受けて訂正請求をした経過に照らせば、事実上・法律上の根拠を欠くものとはいえず、制度の趣旨目的に照らし著しく相当性を欠くとは認められないとして、不法行為の成立を否定した。