殺人,非現住建造物等放火被告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成28あ1508
- 事件名
- 殺人,非現住建造物等放火被告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判年月日
- 2019年7月11日
- 裁判種別・結果
- 判決・棄却
- 裁判官
- 山口厚、池上政幸、小池裕、木澤克之、深山卓也
- 原審裁判所
- 広島高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、近隣住民から約10年間にわたりうわさを流されたり、挑発や嫌がらせを受けたりしているとの妄想を抱いていた被告人が、近隣住民に対する報復を考え、一晩のうちに近隣の住居4軒に侵入して住人5名を殺害し、うち2軒の家屋に放火して全焼させた殺人・非現住建造物等放火事件である。殺害の態様は、木製棒等で各被害者の頭部等を多数回殴打するなどし、脳挫滅等により死亡させたというものであった。一部の被害者に対しては、脚部等を骨折するほどの力で殴打したり、木製棒を口腔内に入れて組織が挫滅状態になるほど圧迫した上で、頭部等に致命傷を与えるなど、執拗かつ残忍な犯行態様であった。第1審は被告人の完全責任能力を肯定した上で死刑を言い渡し、原審もこれを維持したため、弁護人及び被告人本人が上告した。弁護人は判例違反や憲法違反を主張したが、その実質は法令違反や事実誤認の主張であり、被告人本人の上告趣意も事実誤認の主張にとどまっていた。 【争点】 本件の主要な争点は、第一に被告人が各犯行の犯人であるか、第二に犯行時に完全責任能力を有していたか、第三に死刑という量刑が相当であるかという3点である。被告人は長年にわたる妄想を抱いており、犯行の動機形成過程に精神的異常が影響した可能性があるため、責任能力の有無・程度及び妄想が量刑判断にどのように反映されるべきかが実質的な論点となった。 【判旨(量刑)】 最高裁第一小法廷は、弁護人の上告趣意のうち判例違反をいう点は事案を異にする判例を引用するもので本件に適切でなく、その余は憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反・事実誤認の主張であり、被告人本人の上告趣意も事実誤認の主張にすぎず、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらないとして、上告を棄却した。その上で、職権判断として、種々の客観的証拠等に基づき被告人を犯人と認定し、完全責任能力を肯定した第1審判決を是認した原判断は相当であり、刑訴法411条を適用すべきものとは認められないとした。量刑については、殺害の態様が強固な殺意に基づく執拗かつ残忍な犯行であり、5名の生命が奪われた結果は誠に重大で、遺族らの処罰感情も厳しいと指摘した。また、動機形成過程に妄想が影響しているものの、被告人は自らの価値観等に基づいて犯行を選択・実行したものであり、妄想が各犯行に及ぼした影響は大きなものではないと評価した。そして、前科がないことなど被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても、刑事責任は極めて重大であるとして、死刑を維持した原判断を是認した。本判決は、妄想性障害を背景とする事案における責任能力判断と、妄想の影響と行為選択性を踏まえた死刑量刑の考慮要素を示した事例として実務的意義を有する。