殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反
判決データ
- 事件番号
- 平成29う547
- 事件名
- 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反
- 裁判所
- 大阪高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年7月16日
- 裁判種別・結果
- 破棄自判
AI概要
【事案の概要】 本件は、自閉スペクトラム症の影響を受けた被告人が、近隣に住む当時11歳の男児(被害者)を、鉈様の刃物(通称コピスマチェット、刃体長約48.2センチメートル)で突き刺すなどして殺害した殺人・銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件の控訴審判決である。被告人は中学2年生頃から関係妄想を抱くようになり、高校中退後は引きこもり生活を送っていた。平成26年夏頃、近所に住むようになった被害者兄弟に対し、自分への嫌がらせをしているとの被害妄想を抱き、さらに、両名がストーカー行為をする暴力団員あるいは不法入国者であるとの妄想を増幅させた。被告人は犯行数日前に入国管理局へ被害者兄弟を通報するなどした後、平成27年2月5日、和歌山県紀の川市内の空き地で被害者を待ち受け、殺意をもって右前胸部・左腰背部等を突き刺し、頭部を切り付けて失血死させた。原審(裁判員裁判)は、統合失調症ないし妄想性障害による被害妄想の影響により心神耗弱状態にあったと認定し、懲役16年を言い渡したが、検察官・弁護人双方が控訴した。なお、結審後に被告人から控訴取下書が提出されたが、自閉スペクトラム症の特性上、自己の権利を守る能力が著しく制限された状態で行われた疑いが否定できないとして、控訴取下げは無効と判断された。 【争点】 主要な争点は、第一に被告人の原審公判供述及び捜査段階の自白の任意性・信用性(弁護人は精神症状により判断能力が損なわれていたと主張)、第二に被告人の犯人性、第三に犯行時の責任能力である。特に責任能力については、原審・当審双方で職権調査により精神鑑定が実施され、原審のB鑑定(統合失調症ないし妄想性障害)と、当審のA鑑定(自閉スペクトラム症)とで診断内容が異なり、いずれの鑑定に依拠して責任能力を判断すべきかが問題となった。また、検察官・弁護人ともに責任能力についての事実誤認を控訴趣意で主張していない中、控訴審裁判所が職権で責任能力判断につき事実誤認を理由に原判決を破棄し被告人に不利益な自判をすることの可否(攻防対象論・不利益変更禁止原則との関係)も論点となった。 【判旨(量刑)】 大阪高裁は、B鑑定には判断過程と結論の間に無視し難い不整合があり、独自の基準により精神症状の影響を著しいと評価した疑いがあると指摘。新たに実施したA鑑定の方が信用性が高いとし、被告人の精神障害は自閉スペクトラム症であると認定した。その上で、被害妄想や心の理論の障害が動機形成に影響したものの、生命・身体への切迫感はなく、動機の根本は憤懣であり、被告人は殺人が犯罪であることを認識し、犯行直後に罪証隠滅工作を行うなど行動制御能力も保たれていたとして、犯行時は完全責任能力であったと認定。責任能力の問題は有罪・無罪のみならず量刑判断にも不可欠であるから、当事者の控訴趣意にかかわらず職権調査が及び、被告人に不利益な自判も可能であると判示した。量刑については、怨恨を動機とする殺人1件の量刑傾向(概ね懲役13年から15年)を踏まえつつ、自閉スペクトラム症の影響の大きさを犯情として十分考慮し、原判決の量刑判断枠組みと量刑事情の評価は尊重できるものとして、原判決を破棄した上で改めて懲役16年を言い渡した。