AI概要
【事案の概要】 本件は、大阪弁護士会所属の弁護士である被告人が、依頼者Aから離婚等請求訴訟の提起を依頼されながらこれを放置していた事実の発覚を免れるため、裁判所が作成した判決書を偽造・行使したという有印公文書偽造・同行使の事案である。 被告人は、依頼者Aから離婚等請求訴訟の提起を委任されていたにもかかわらず、長期間にわたって訴訟を提起しないまま放置していた。そして、その実態を隠ぺいするため、あたかも訴訟が進行し判決が言い渡されたかのように装うこととし、パーソナルコンピュータを用いて架空の判決書を作成することとした。 具体的には、平成25年6月頃、大阪家庭裁判所岸和田支部において「原告と被告とを離婚する」旨の判決が言い渡されたかのような判決書を、実在する裁判官の氏名を用いて偽造し、これを事務所のファックスでA方に送信した。その後も、Aから訴訟の進捗を問われるたびに、控訴審の判決書(大阪高等裁判所第5民事部の裁判長裁判官ほか2名名義)や、差戻後の第一審・控訴審の判決書を次々と偽造し、合計5回にわたってA方にファックス送信ないし交付して行使した。偽造された判決書には、いずれも実在する裁判官の氏名が用いられ、弁護士である被告人が交付・送信するという態様もあいまって、真正な判決書との区別は極めて困難な体裁となっていた。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人を懲役1年6月に処し、3年間その刑の執行を猶予する旨の判決を言い渡した(求刑懲役1年6月)。 量刑にあたり裁判所は、本件が社会正義を実現すべき立場にある弁護士が、自らの専門知識を悪用して、業務放置という非違行為の隠ぺいのために5度にわたり判決書の偽造・行使に及んだものであり、判決書の有する社会的信頼を大きく損なわせる悪質な犯行である点を重く見た。偽造された判決書には実在の裁判官名が用いられ、弁護士が行使するという態様も手伝って、偽造であると見破ることは困難であり、結果の重大性も否定できないと評価された。 他方で、犯行動機は身勝手なものではあるものの、財産的な利得を目的としたものではない点は一定程度酌むべき事情として考慮された。また、被告人に前科は罰金刑にとどまること、被告人が罪を認めて反省の態度を示していること、依頼者との間で示談が成立し一部が履行されていることも酌量事由とされた。 これらの事情を総合考慮し、被告人の刑事責任は軽視できないものの直ちに実刑に処すべきとまでは認め難いとして、懲役1年6月の刑に処した上で、今回に限り執行を猶予することとした。本件は、弁護士の職務倫理と公文書偽造罪が交錯する事案として、専門職による文書偽造の悪質性と、身上事情・示談成立等を踏まえた執行猶予判断のバランスが示されたものである。