命令服従義務不存在確認請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30行ヒ195
- 事件名
- 命令服従義務不存在確認請求事件
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判年月日
- 2019年7月22日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄差戻
- 裁判官
- 山口厚、池上政幸、小池裕、木澤克之、深山卓也
- 原審裁判所
- 東京高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、陸上自衛官である被上告人(原審原告)が、国(上告人)を相手取り、自衛隊法76条1項2号に基づく防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求めた事案である。 自衛隊法76条1項2号は、平成27年のいわゆる平和安全法制によって新設された規定であり、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(いわゆる存立危機事態)において、内閣総理大臣が自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる旨を定めている。被上告人は、この規定が憲法9条に違反すると主張し、同規定に基づく防衛出動命令に従う義務がないことの確認を求めて訴えを提起した。 ただし、防衛出動命令は組織としての自衛隊に対する命令であって、個々の自衛官に対して発せられるものではなく、実際に個々の自衛官を拘束するのは、防衛出動を受けた部隊等の監督責任者が当該部隊所属の自衛官に対して発する具体的な職務命令である。そのため、本件訴えは、被上告人が当該職務命令に服従する義務がないことの確認を求めるものと解された。 第1審は本件訴えを不適法として却下したが、原審(東京高裁)は、本件訴えを職務命令不服従を理由とする懲戒処分の差止めの訴えを公的義務不存在確認の形式に引き直した無名抗告訴訟と位置付けた上で、行政事件訴訟法37条の4第1項の「重大な損害を生ずるおそれ」及び「他に適当な方法があるときでない」という差止めの訴えの訴訟要件を満たすとして適法と判断し、第1審判決を取り消して事件を第1審に差し戻した。これに対し国が上告受理申立てをしたのが本件である。 【争点】 将来の不利益処分の予防を目的として、当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟について、差止めの訴えに要求される「一定の処分がされようとしていること」すなわち処分の蓋然性の要件(行政事件訴訟法3条7項)を満たす必要があるか否か。 【判旨】 原判決破棄・差戻し。 本件訴えは、職務命令不服従を理由とする懲戒処分の予防を目的として、その処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟である。このような訴えは、差止めの訴えと目的を共通にし、請求が認容されれば行政庁が当該処分をすることが許されなくなるという点でも差止めの訴えと異ならない。 差止めの訴えについては、行政庁がその処分をすべきでないことが法令の規定から明らかであると認められること等が本案要件とされており(行訴法37条の4第5項)、処分の前提となる公的義務の存否も審理対象となる。そうすると、公的義務不存在確認の無名抗告訴訟は、確認訴訟の形式で差止めの訴えの本案要件該当性を審理するものにほかならないから、差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件で許容されるとは解されない。 したがって、差止めの訴えの訴訟要件の一つである、行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があるとの要件(蓋然性の要件)は、この種の無名抗告訴訟においても必要である。将来の不利益処分の予防を目的として公的義務不存在確認を求める無名抗告訴訟は、蓋然性の要件を満たさない場合には不適法となる。 原審は蓋然性の要件の充足を検討することなく本件訴えを適法としたものであり、判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。よって原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻す。 本判決は、公的義務不存在確認訴訟という予防的無名抗告訴訟について、差止めの訴えとのパラレリズムを明確にし、蓋然性の要件を具備すべきことを最高裁として初めて明示したものであり、予防的行政訴訟の要件論に関する重要な先例的意義を有する。