AI概要
【事案の概要】 本件は、発明の名称を「美容器」とする特許権(特許第6121026号。請求項は4項)について、原告(株式会社ファイブスター)が特許庁に無効審判を請求したところ、特許庁が「本件審判の請求は成り立たない」との不成立審決を下したため、原告がその取消しを求めた審決取消訴訟である。被告は特許権者である株式会社MTGである。本件特許発明は、棒状のハンドル本体と、その表面から内方に窪んだ凹部と、結合部分が露出しない状態で凹部を覆うハンドルカバーとからなる美容器に関するもので、一対の分枝部の先端にローラを配置して肌を押圧・挟み上げることでマッサージ効果を得る構造であった。従来は、ハンドルを中心線に沿って上下または左右に分割し内部に部材を収納する構成が用いられていたが、成形精度や強度が低下し、密閉作業に手間がかかるという問題があった。本件特許発明は、ハンドル本体に凹部を形成し、これをハンドルカバーで覆う構造とすることで、分割構造に比べて成形精度・強度を高く維持し、組立作業性の向上を図った点に技術的意義がある。原告は、主引用例として国際公開第2011/004627号(甲1。芯材と一対の外装カバーからなる美容器)を挙げ、副引用例等を組み合わせることで、当業者が容易に発明をすることができたとして、進歩性の欠如(特許法29条2項)を無効理由1~3として主張した。 【争点】 本件特許発明1ないし4が、甲1発明、甲2事項(マッサージローラーの構造)、甲3事項(清掃用具の柄の構造)、甲11~14の周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえるか、すなわち進歩性を欠くかが争点である。とりわけ、甲1発明の「芯材13」を取り除き、表面から内方に窪んだ凹部を有するハンドル本体と凹部を覆うハンドルカバーという構成(相違点1)に容易に至り得たかが中心的争点となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却し、審決を維持した。裁判所は、本件特許発明の要旨認定について、発明の詳細な説明や図面を参酌して特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきであるとの最高裁平成3年3月8日判決を引用し、本件特許発明はハンドルを上下または左右に分割した構成を含まないと認定した。そのうえで、甲1発明の芯材13は、外装カバーを固定する芯材としての機能のみならず、ローラ支持軸を保持し、外装カバー外表面の導電メッキ部分とローラ支持軸との電気的絶縁を保つ絶縁材としての機能を兼ね備えており、これを取り除くことは容易でないと判断した。また、本件特許発明が解決しようとする「ハンドルの成形精度や強度の維持、密閉作業の容易化」という課題は、甲1にも甲2・甲3にも記載されておらず技術常識でもないうえ、甲2事項は全体の形状・部品配置が大きく異なり、甲3事項は清掃用具に関するもので技術分野が異なるとして、いずれについても甲1発明に副引用例を適用すべき動機付けは認められないと結論した。甲11・12・14の周知技術についても、トリートメント装置やヘアブラシ、電子イオン歯ブラシに関するものであって美容器とは技術分野が異なり、甲1発明の芯材を取り除くことが容易でない以上、相違点1に係る構成に容易に想到できたとはいえないと判示した。以上から、相違点2・3を判断するまでもなく、本件特許発明1および従属請求項である本件特許発明2ないし4について進歩性を認め、審決の判断に誤りはないとした。本判決は、複合的な機能を担う部材(芯材)の除去可能性や、副引用例との技術分野の隔たりを重視して進歩性を肯定する判断枠組みを示したものとして、特許無効審判実務上参考となる事例である。