発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、宗教法人である原告(創価学会)が、経由プロバイダである被告(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)4条1項に基づき、本件記事を投稿した発信者の情報開示を求めた事案である。 平成30年11月18日、原告の施設である甲記念講堂において「世界広布新時代第39回本部幹部会」が開催され、原告の一事業部門である聖教新聞社報道局の職員Aが、講演者及び参加者・会場の様子を斜め後方から撮影した写真(本件写真)が、翌19日付聖教新聞の1面に原告名義で掲載された。ところが、氏名不詳者が、被告の提供するインターネット接続サービスを介して、レンタル掲示板サービス「teacup.」上に本件写真の一部(左部及び下部の一部)を切り取った写真を含む記事(本件記事)を投稿した。原告は、この投稿行為が本件写真に係る公衆送信権を侵害することが明らかであるとして、損害賠償請求や削除要求を行うため、被告に対して発信者のIPアドレス等の開示を求めた。発信者情報開示請求は、匿名の投稿によって権利を侵害された者が加害者を特定する重要な手段であり、本件はその前提として、職務著作の成否と引用の抗弁の可否が問われた事案である。 【争点】 権利侵害の明白性に関して、本件写真の著作物性(争点1)、本件写真の著作者が原告であること(争点2)、著作権法32条1項の「引用」が成立しないこと(争点3)、及び発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点4)が争点となった。特に被告は、本件写真の掲載は投稿者がB会長のスピーチに対する拍手の少なさを主張するための補足説明として必要最小限の範囲で行われたものであり、公正な慣行に合致する正当な引用であると主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を全部認容した。まず本件写真の著作物性について、講演者とともに参加者及び会場全体が写るように講演者の斜め後方から撮影されており、被写体の選択、構図、カメラアングル等に撮影者Aの個性が表れているとして、思想又は感情を創作的に表現したものと認めた。著作者については、聖教新聞社が原告の収益事業部門であり、Aが原告の職員であること、原告の就業規則に職員の職務上の著作物の著作権は法人に帰属する旨の定めがあることから、著作権法15条1項の職務著作の要件を満たし、原告が著作者であると認定した。 引用の抗弁については、本件記事の投稿内容を見ても投稿者の主張・意見は判然とせず、仮に拍手が少ないことを摘示する趣旨だったとしても、スピーチの一場面を捉えた写真は拍手の多寡を補足説明するものとはいえないとして、引用の必要性を否定した。したがって、公正な慣行にも合致せず、目的上正当な範囲内の引用とも認められないとし、著作権法32条1項の「引用」の成立を否定した。 以上より、本件記事の投稿により原告の公衆送信権が侵害されたことは明らかであり、被告は法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当し本件発信者情報を保有していることから、原告が投稿者に対する損害賠償請求等を行うために開示を求めることには正当な理由があるとして、発信者情報の開示を命じた。