AI概要
【事案の概要】 本件は、特許出願の拒絶査定不服審判請求を不成立とした特許庁の審決について、原告が取消しを求めた審決取消請求訴訟である。原告は、平成28年6月16日に「エンジンと多目的ファンモーター」との名称の発明について特許出願をした。その後、拒絶理由通知を受けて2回にわたり手続補正をし、補正2では発明の名称を「エンジンと多目的ファンモーターターボ」に変更するとともに、明細書の全文を変更した。しかし平成29年7月4日付けで拒絶査定を受けたため、同年8月23日に拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁は平成30年11月19日に「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした。審決は、補正における新規事項追加(特許法17条の2第3項違反)、明確性要件違反(同法36条6項2号違反)、実施可能要件違反(同法36条4項1号違反)の3点を理由としていた。とりわけ審決は、補正により追加された「不完全燃焼防止装置」や「テコ作用」、各部の具体的数値などが当初明細書等に記載も示唆もなく、自明ともいえないと判断していた。これを受けて原告は、当初明細書の図2から「テコ作用」が理解できると主張するなどして本件訴訟を提起した。 【争点】 主たる争点は、本件補正2により明細書の段落【0002】、【0005】、【0007】、【0010】に追加された「テコ作用」に関する記載が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえるか、すなわち新規事項の追加に当たるか否かである。特許法17条の2第3項にいう「最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し、補正がこの技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるかが判断基準となる。 【判旨】 知的財産高等裁判所第2部は、原告の請求を棄却した。裁判所は、「テコ」とは棒上の一点(支点)を固定し、別の一点(力点)に力を加えて支点を中心に回転させる仕掛けをいい、「テコの原理」とは支点から遠い力点に小さな力を加えて支点に近い作用点で大きな力を得るという原理をいうところ、当初明細書等にはこのような一般的意味での「テコ」や「テコの原理」に関する記載は存在しないと認定した。補正後明細書の記載からすると本件補正発明における「テコ作用」はタービンにおいて働くものと認められるが、タービンに用いられる「テコ作用」の意味や技術的内容は当初明細書等から読み取れず、またエンジンやタービンにおいて何らかの「テコ」や「テコ作用」が備わっていることが出願当時の当業者にとって自明であると認めるに足りる証拠もないとした。原告は当初明細書等の図2から「テコ作用」が理解できると主張したが、図2はタービンの断面形状がほぼ円形でその外周に羽根が固定されていることを示すにとどまり、そこから「テコ作用」の意味や技術的内容を読み取ることはできないと退けた。また当初明細書等には補正で追加された具体的数値の記載もなく、「テコ作用」を説明なしに用いた特許査定例の存在を認める証拠もないとした。以上から、本件補正2のうち「テコ作用」に関する記載の追加は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではなく、その余の取消事由について判断するまでもなく本願は拒絶されるべきものとして、原告の請求は棄却された。本判決は、特許明細書の補正における新規事項追加の判断枠組みを踏まえ、図面から読み取れる技術的事項の範囲を厳格に画した事例として、補正実務において意義を有するといえる。