AI概要
【事案の概要】 本件は、昭和24年7月15日夜、三鷹駅構内で発生した無人電車の暴走・脱線・衝突事故(いわゆる三鷹事件)について、確定判決で単独犯行と認定され無期懲役(控訴審で死刑)に処せられた元電車運転士Aに関する再審請求事件である。本件電車は、三鷹電車区車庫1番線に留置されていた7両編成の電車であり、何者かによって起動操作がなされた結果、運転者のないまま発進し、時速60キロメートルを超える高速度で三鷹駅下り1番線の車止めに衝突して脱線、駅前付近にいた通行人6名を轢死させた。当時、国鉄第2次整理による大量解雇を背景とした労働争議の緊迫した情勢下にあり、同日に解雇通知を受けていたAが捜査対象となった。Aは単独犯行を認める自白と、共犯者らとの共同犯行の自白、関与自体を否定する供述との間で供述を変遷させ、確定判決は単独犯行と認定した。Aは昭和42年に獄中で死亡したが、平成23年、Aの長男が請求人となり、新証拠によりAの単独犯行を前提とする確定判決の事実認定に合理的疑いが生じるとして、刑訴法435条6号に基づく再審を請求した。弁護人は、①第2車両のパンタグラフ、②第7車両の手ブレーキ、③第7車両の前照灯、④第7車両の扉連動スイッチの各状況から複数犯人の存在が推認され、⑤目撃証人B1の公判供述の信用性が否定され、⑥Aにアリバイが成立する等と主張した。 【争点】 弁護人が提出した新証拠が、Aの単独犯行を前提とする確定判決の事実認定に合理的疑いを生じさせ、無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」(刑訴法435条6号)に該当するかが争点となった。特に、発車時の車両各部の操作状況から複数犯人の関与が推認されるか、Aの自白の信用性、目撃供述の信用性、アリバイの成否が具体的な論点となった。 【判旨(結論)】 東京高裁第4刑事部は、本件再審請求を棄却した。裁判所は弁護人提出の各新証拠を逐一検討した上で、確定判決の事実認定に合理的疑いを抱かせる「明らかな証拠」には当たらないと判断した。第2車両のパンタグラフの損傷状況については、本件電車が脱線・衝突して停止に至るまでの間に折れた電柱や切れた架線等の衝撃を受けたとみるのが自然であり、発車時から上昇していたとの鑑定意見は抽象的可能性を指摘するにとどまると退けた。第7車両の手ブレーキについては、前運転士B8が降車時に手ブレーキを緊締していたとは認められず、弁護人主張の国鉄規程類は本件当時の電車区構内での留置に直接適用されるものではないとした。第7車両の前照灯と扉連動スイッチについても、交番検査終了時の状態がそのまま残っていた可能性を否定できず、複数犯人の存在を推認させる事情とはいえないと判断した。目撃者B1の公判供述についても、心理学鑑定は目撃時の照明状況等の前提を十分踏まえておらず、公判供述の信用性に疑いを抱かせるものではないとした。アリバイ主張についても、A自身が公判で当夜外出した旨供述を変更した経緯があり、確定判決の事実認定を動揺させるものではないとした。以上を総合評価しても、Aが本件犯行に及んだと認めた確定判決の事実認定に合理的疑いは生じないとして、刑訴法447条1項により再審請求を棄却した。戦後昭和史の国鉄三大事件の一つをめぐる再審の扉は、本決定により再び閉ざされる結果となった。