AI概要
【事案の概要】 本件は、水素水サーバーの製造販売を行う原告が、発明の名称を「気体溶解装置及び気体溶解方法」とする特許第6116658号(本件特許)の特許権を保有していたところ、被告豊大が輸入・販売する2種類の水素水サーバー(被告製品1・2)および被告大丸エナウィンが販売する被告製品2が本件特許の技術的範囲に属し、または同範囲に属する物の生産のみに用いられる物に該当するとして、特許法100条1項に基づき被告らに対して被告各製品の輸入・販売等の差止めおよび廃棄を求めた事案である。本件特許は、水槽、水素発生手段(固体高分子膜を挟んだ電気分解方式)、加圧型気体溶解手段、水素水を貯留する溶存槽、溶存槽から水槽へ水素水を導く降圧移送手段としての管状路からなる気体溶解装置であって、水を循環させ水素バブルをナノバブルとすることなどを特徴とするものである。本件特許については、第三者からの無効審判請求に対し、特許庁が平成31年1月21日、サポート要件違反を理由として無効とする旨の審決をしており、原告はこれに対し知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起していた。原告は本件訴訟と並行して、管状路を「1.0mmより大きく3.0mm以下の内径の細管(但し、0.8m以下の長さのものを除く)」とする訂正請求(本件訂正)を行っていた。 【争点】 争点は多岐にわたるが、主要なものとして、被告各製品が本件発明の各構成要件(特に溶存槽、降圧移送手段としての管状路に関する構成)を充足するか、本件特許に進歩性欠如・サポート要件違反等の無効理由があるか、本件訂正によって無効事由が解消されるかが争われた。裁判所は事案に鑑み、まず本件訂正発明についてサポート要件違反の有無(争点3-1)から判断した。 【判旨】 東京地裁は、原告の請求をいずれも棄却した。サポート要件適合性は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲であるか否かで判断されるところ、本件訂正発明の課題である過飽和状態(2.0ppm超)の安定維持について、明細書の実施例では長さ1.4mから4mの細管で課題解決が確認され、比較例では0.4mおよび0.8mの細管で課題を解決できないことが示されているものの、長さが0.8mを超え1.4m未満の範囲については課題解決を示す結果が記載されていないと指摘した。また、管状路の内径(Xmm)と加圧圧力(YMPa)の比(XY比)についても、実施例では1.00〜12.00の範囲に収まるのに対し、比較例ではこの範囲から外れており、XY比の値によって課題解決が左右されるにもかかわらず、本件訂正後の特許請求の範囲はこの点を何ら限定していないと認定した。そのうえで、本件訂正発明は当業者が発明の課題を解決できると認識できない部分を含むものであって、特許法36条6項1号のサポート要件に違反し、本件訂正によっても無効事由は解消されないと判断。本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるから、特許法104条の3第1項により原告は本件特許権を行使できないとして、構成要件充足性等その余の点を判断するまでもなく原告の請求を棄却した。本判決は、数値限定発明におけるサポート要件判断に際し、実施例・比較例で検証された数値範囲外について技術常識による補完を要求し、発明の効果が生じる範囲を明細書上で合理的に裏付ける必要があることを明確にした裁判例として実務的意義を有する。