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【事案の概要】 平成23年3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴う津波により、東京電力(被告東電)が福島県大熊町・双葉町で運転する福島第一原子力発電所において全交流電源喪失に至り、原子炉冷却機能が失われて炉心溶融・水素爆発・放射性物質の大量放出という未曽有の過酷事故が発生した。この本件事故により、福島県内から愛知県・岐阜県・静岡県へ避難を余儀なくされた住民やその相続人ら(原告ら)が、被告東電と国を相手取り、損害賠償を求めて名古屋地方裁判所に提訴したものである。 原告らは、被告東電に対しては、敷地高さを超える津波の到来を予見し得たにもかかわらず、防潮堤設置・建屋の水密化・非常用電源の分散配置といった安全対策を怠ったと主張し、原子力損害賠償法(原賠法)3条1項(原子力事業者の無過失責任)、民法709条(不法行為)又は民法717条1項(工作物責任)に基づき賠償を請求した。被告国に対しては、経済産業大臣が、平成14年に公表された地震調査研究推進本部の「長期評価」(三陸沖から房総沖までの日本海溝沿いでマグニチュード8クラスの津波地震が発生し得ると指摘したもの)や平成20年の東電内部試算(2008年推計、最大O.P.+15.7m)を踏まえて、電気事業法40条に基づく技術基準適合命令等の規制権限を適時に行使すべきであったのに、これを怠ったことが違法であるとして、国家賠償法1条1項に基づき賠償を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)本件設置等許可処分の違法性、(2)経済産業大臣の規制権限不行使の違法性(特に本件津波の予見可能性と結果回避可能性)、(3)被告東電に民法上の不法行為責任を追及できるか(原賠法による排他性の有無)、(4)避難の合理性及び精神的損害の賠償範囲、(5)各区域(帰還困難区域、旧居住制限区域、自主的避難等対象区域、区域外等)ごとの慰謝料額、である。 【判旨】 本判決は、被告東電に対する請求を原賠法3条1項に基づき一部認容する一方、被告国に対する請求はすべて棄却した。 国の責任については、長期評価や2008年推計により平成18年頃には敷地高さを超える津波到来の予見可能性自体は認められるものの、その切迫性は高くなく、仮に規制権限を行使させて防潮堤設置等の対策工事を講じさせたとしても、本件津波の規模(浸水域・浸水深・遡上方向)は2008年推計と大きく異なり、許認可手続や工事期間に優に5年超を要したと認められるから、本件事故についての結果回避可能性は認められず、規制権限不行使が著しく合理性を欠くとはいえないと判断した。また、本件設置等許可処分の安全審査に看過し難い過誤・欠落は認められず、シビアアクシデント対策を法令で義務付けなかったこと、本件事故後の避難指示・SPEEDI情報の取扱いについても違法性を否定した。 被告東電の責任については、原賠法は原子力事業者への責任集中、無過失責任、求償権制限等により民法上の不法行為責任規定の適用を排除する特則であるとして、民法709条・717条1項に基づく請求は認めず、原賠法3条1項による無過失責任のみを認めた。損害論では、中間指針等は一定の合理性を有するが裁判規範ではないとして、避難の合理性・慰謝料額を独自に検討し、帰還困難区域・旧居住制限区域・旧避難指示解除準備区域・旧緊急時避難準備区域・自主的避難等対象区域の各住民について、避難費用・生活費増加費用・就労不能損害・財物損害・精神的損害を個別に認定し、別紙認容額一覧表のとおり各原告の認容額を確定した。既払金のある原告については損害額から控除し、既払金が認容額を上回る19名については請求をすべて棄却した。