損害賠償請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 食品の包装フィルムに印刷するデザインを個人事業主として請け負ってきたデザイナー(控訴人)と、食品メーカー向けに包装フィルムを製造・印刷する会社(被控訴人)との間で争われた不正競争防止法違反の損害賠償請求事件である。両者はかねてより発注者・下請人の関係にあり、控訴人が作成したデザインを被控訴人が包装フィルムに印刷する取引を継続していたが、デザインの使用範囲や採用報告をめぐって紛争が生じ、控訴人は被控訴人による著作権等侵害を主張して前訴を提起し、さらに別のデザイン1305点について別訴を提起するに至っていた。 本件で問題となったのは、控訴人が被控訴人の取引先である食品メーカー(本件顧客)に対し、別訴係属中の被控訴人の行為についての記載を含む書面を送付した行為である。被控訴人は、当該書面の記載(本件各記載)は自社の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に当たるとして、主位的に不正競争防止法4条、予備的に民法709条に基づき、慰謝料500万円と弁護士費用相当損害金50万円の合計550万円の損害賠償を求めた。原判決は主位的請求を慰謝料50万円・弁護士費用5万円の合計55万円の限度で認容し、控訴人が控訴したのが本件である。 【争点】 主な争点は、(1)本件訴訟の提起が別訴と二重起訴に当たり民訴法142条に反しないか、(2)不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権の成否、具体的には控訴人と被控訴人の間の「競争関係」の存否、本件各記載が「虚偽の事実の告知」に当たるか、別訴立証のための行為として違法性が阻却されるか、控訴人に故意・過失があったか、(3)損害額の認定の相当性である。 控訴人は、自身はデザイン業務のみを行い食品メーカーと直接取引したことがないこと、被控訴人とは発注者・下請人という上下関係にあるにすぎず競争関係にないこと、本件各記載は別訴における自己の主張を記載したものにすぎず真実であること、警察官の指導に従い別訴の立証活動として行ったものであり違法性が阻却されることなどを主張した。 【判旨】 知財高裁は控訴を棄却した。 まず二重起訴の主張については、別訴の訴訟物は控訴人の著作権等侵害を理由とする控訴人の損害賠償請求権であるのに対し、本件訴訟の訴訟物は被控訴人の営業上の利益侵害を理由とする被控訴人の損害賠償請求権であり、訴訟物が異なる以上「事件」は同一でないとして排斥した。 「競争関係」については、不競法2条1項15号の競争関係は、双方の営業について需要者・取引者を共通にする可能性がある場合も含むと解した上で、控訴人は個人事業主としてデザイン業務を廃業しておらず、被控訴人以外からも包装フィルム用デザインの依頼を受けた経験があり、食品メーカーから直接依頼を受ける可能性もあるから、両者間に競争関係が認められるとした。発注者・下請人の上下関係があっても、各自が食品メーカーと取引する場面では競争関係が生じるとの判断である。 「虚偽の事実の告知」については、本件書面には別訴係属を示唆する記載はあるものの、本件各記載が控訴人の別訴での主張にとどまる旨の説明はなく、あたかも事実として存在するかのように記載されていると認定し、受領した本件顧客がそれを単なる主張と理解するとは考え難いとした。違法性阻却の主張も、警察官が民事立証について具体的指導をすることは通常考えられず、被控訴人が書面送付に同意していたことも認められないとして退けた。故意・過失についても、前訴確定判決が包括的同意を理由に侵害を否定しており同様の事実関係に基づく別訴対象デザインも同様である蓋然性が高いこと、被控訴人がデザイン採用報告を行っていた事実が認められることなどから肯定し、損害額の認定も相当と判断して、原判決を維持した。