執行文付与に対する異議事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30受1626
- 事件名
- 執行文付与に対する異議事件
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 裁判年月日
- 2019年8月9日
- 裁判種別・結果
- 判決・棄却
- 裁判官
- 菅野博之、山本庸幸、三浦守
- 原審裁判所
- 大阪高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、いわゆる再転相続における相続放棄の熟慮期間の起算点が争われた事案である。事案の経緯は以下のとおりである。みずほ銀行は、南大阪食肉市場株式会社に対する貸金債権につき、連帯保証人であるA外4名に対し、各自8000万円の支払を求める訴訟を提起し、平成24年6月に請求認容判決(本件確定判決)を得た。その直後の同月30日にAが死亡し、妻と子らは相続放棄をした結果、Aのきょうだいらが相続人となった。そのうちB(Aの弟)は、自らがAの相続人になったことを知らないまま、平成24年10月19日に死亡した。Bの相続人である妻と子(被上告人ら)は、同日頃にBの相続人となったことを知ったが、Aからの相続についてはそれ以上の認識を持たなかった。その後、みずほ銀行は本件確定判決に係る債権を上告人に譲渡し、上告人は平成27年11月2日、Aの承継人として被上告人に対し強制執行できる旨の承継執行文の付与を受けた。被上告人は同月11日、本件債務名義等の送達を受けて初めて、BがAの相続人であり、自己がBを介してAの相続人の地位を承継していた事実を知った。被上告人は、平成28年2月5日、Aからの相続につき相続放棄の申述をし、同月12日に受理された。本件は、被上告人が本件相続放棄を異議の事由として、上告人に対し強制執行の不許を求めた執行文付与に対する異議の訴えである。 【争点】 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義、すなわち、再転相続人(丙)が、被相続人(甲)からの相続放棄を行うための熟慮期間の起算点をいつと解すべきかが争点となった。原審は、同条は中間相続人(乙)が自己が甲の相続人であることを認識していた場合にのみ適用されるとし、本件のようにBがAの相続人となったことを知らずに死亡した場合には同条は適用されず、民法915条により被上告人がBを介してAの相続人の地位を承継した事実を知った時から熟慮期間が起算されると判断した。 【判旨】 上告棄却。最高裁は、原審の民法916条の解釈適用には誤りがあるとしつつ、結論においては是認できるとした。相続の承認又は放棄の制度は、相続人に財産承継の選択機会を保障するものであり、熟慮期間は相続財産の調査・熟慮のための期間である。再転相続人である丙は、自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって、当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではなく、丙自身が乙から甲の相続人たる地位を承継した事実を知らなければ、甲からの相続について承認又は放棄を選択することはできない。したがって、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、承認又は放棄をしないで死亡した者(乙)の相続人(丙)が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時をいうと解すべきである。また、同条は、乙が自己が甲の相続人であることを知っていたか否かにかかわらず適用されることも明らかにした。本件では、被上告人は平成27年11月11日の本件送達によりAの相続人たる地位を承継した事実を知ったのであるから、熟慮期間はその時から起算され、平成28年2月5日の本件相続放棄は熟慮期間内になされたものとして有効である。本判決は、再転相続における熟慮期間起算点について、再転相続人自身の承継事実の認識を基準とすることを明確にしたもので、実務上重要な意義を有する。