不正競争行為差止等請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30ネ10092
- 事件名
- 不正競争行為差止等請求控訴事件
- 裁判所
- 知的財産高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年8月21日
- 裁判官
- 高部眞規子、小林康彦、関根澄子
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 字幕制作ソフトウェア「SSTG1」を開発・販売する一審原告(株式会社カンバス)が、競合ソフトウェア「Babel」を販売する一審被告フェイスと、その開発を担当した一審被告Yに対し、不正競争行為の差止めと損害賠償を求めた事案の控訴審である。一審原告は、一審被告Yが一審原告のソフトウェアを構成するプログラムのソースコードを不正に持ち出して一審被告フェイスに開示し、被告ソフトウェアの制作に用いたと主張し、不正競争防止法2条1項4号、5号、7号、8号の営業秘密侵害に該当するとして、被告ソフトウェアの生産・使用等の差止め、記録媒体の廃棄、3000万円の損害賠償等を請求した。 一審被告Yは、一審原告の従業員ではなく外部技術者として原告ソフトウェアの開発にほぼ一人で携わった後、一審被告フェイスの委託を受けて被告ソフトウェアを実際に開発した経緯がある。また、両ソフトウェア間には、旧SSTのmdb形式ファイルを読み書きする機能を通じた互換性が存在した。 原審の東京地裁は、鑑定により指摘された4つの類似箇所のうち一部につき営業秘密該当性を認め、一審被告Yによる開示と一審被告フェイスによる取得・使用が不正競争行為に当たるとして、被告ソフトウェアの差止めと約199万円の損害賠償を認容した。両当事者が控訴した。 【争点】 中心的な争点は、一審被告らが本件ソースコードを「使用」したといえるか(不競法2条1項7号、8号該当性)である。鑑定で指摘された4箇所の類似(変数宣言部、代入・比較演算子のオーバーロード部、mdbファイルのフィールド名)が、一審被告らの本件ソースコード使用を基礎づけるか、それとも同一開発者による慣習や公開情報の参照によって説明可能かが問われた。併せて、類似箇所に係る情報の営業秘密性、差止めの当否・範囲、損害額が争点となった。 【判旨】 知財高裁は、一審原告の請求をいずれも棄却した(原判決変更、一審原告敗訴)。 類似箇所1(字幕データの標準値を格納する変数の宣言部)については、コメントのタブ位置まで一致する特徴があり、一審被告らが本件ソースコードの変数定義部分を参照した可能性は否定できないとしたものの、当該変数定義は、字幕表示の基本設定という原告ソフトウェアの設定メニューから把握可能な項目につき、ごく短い一般的な英単語と、マイクロソフト社が提供する標準のデータ型を用いたものにすぎず、有用性又は非公知性を欠き営業秘密に当たらないと判断した。したがって、この部分を参照したとしても、本件ソースコード全体を「使用」したとは評価できないとした。 類似箇所2、3は類似箇所1をコピーして作成された代入・比較演算子のオーバーロード部分であり、類似箇所1とは別個に生じた類似ではないとして、独立の推認根拠を否定した。 類似箇所4のmdbファイルのフィールド名一致については、mdbファイルがマイクロソフトAccessで開けば誰でも閲覧可能であり、一審被告らが旧SSTとの互換性を得るためmdbファイルを参照して実装したことにより生じたものと推認した。原告主張の「セマンティクス(解析アルゴリズム)の使用」については、そもそもTemplate.mdbはひな型であってプログラムではなく解析アルゴリズムを含まないこと、データ値と表示位置の1対1対応を試行により把握すれば本件ソースコードを参照せずに互換性を実現できることを指摘し、本件ソースコードの使用を意味しないとした。 さらに、鑑定対象の2万9679行のうち非類似部分が99%以上を占めることや、共通するバグ・スペルミス・開発環境の一致等も本件ソースコード使用の裏付けにならないことを詳細に認定した上で、不競法2条1項7号の「使用」はなく、同項4号、5号、8号の不正競争行為もいずれも成立しないと結論付けた。あわせて、原判決が将来のバージョンアップ版まで含めて差止めを認めた点について、本件ソースコード使用の有無を審理せずに差止範囲を広げたのは過大であると付言した。