イラク戦争検証結果報告書不開示処分取消等請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30行コ355
- 事件名
- イラク戦争検証結果報告書不開示処分取消等請求控訴事件
- 裁判所
- 東京高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年8月21日
- 裁判官
- 野山宏、橋本英史、片瀬亮
AI概要
【事案の概要】 本件は,市民(第1審原告)が,情報公開法に基づき,外務大臣に対して2003年の米国等による対イラク武力行使(いわゆるイラク戦争)に関する我が国の対応を検証するために2011年8月から2012年12月にかけて外務省が作成した「報告書」(本文17頁の検証結果報告書)の開示を請求したところ,外務大臣が全部不開示としたため,後に一部開示に変更されたものの依然として大部分が黒塗り(不開示)とされた処分の取消しと開示決定の義務付けを求めた事件である。 本件報告書は,2002年初めから2003年3月の武力行使に至るまでの外務省内の政策検討・意思決定過程を検証し,今後の政策立案に役立てることを目的として作成されたものであり,在米国大使館特命全権公使が全体総括者となり,関係書類の収集及び関係者インタビューに基づいて作成された。外務省は本件報告書自体を非公開とする一方,公表しても差し支えない部分のみを編集し直した「報告の主なポイント」を2012年12月に公表していた。 原告は,本件報告書に記載された事項は他国の調査報告書や民間著作,政府ウェブサイト等で既に公表されており,大量破壊兵器保持の事実が確認されなかったという特殊な事案で類似事例の発生は想定困難であること,武力行使から15年が経過し国際情勢も変化したことなどを挙げ,不開示の理由はないと主張した。一審は請求を棄却・却下したため原告が控訴した。 【争点】 (1)本件報告書の不開示部分(全18部分)が情報公開法5条3号(国の安全,他国との信頼関係,外交交渉上の不利益に関するおそれ)等に該当するか。(2)類似事案の発生蓋然性の不存在や時の経過(15年),大量破壊兵器不発見という特殊性により,5条3号の「おそれ」が消滅したといえるか。(3)各国の調査報告書や民間著作等で類似情報が公表されていることが不開示情報該当性を否定するか。(4)公表情報と同一部分を細かく切り分けて開示すべきか。 【判旨】 東京高裁は控訴を棄却した。 裁判所は,情報公開法5条3号該当性の審査では,外交機密事項という性質上,行政機関の長は情報内容を直接具体的に主張できず,インカメラ審理も許されない(最決平成21年1月15日)ため,裁判所は抽象的・定性的な事実認定に基づき判断するほかないとの審理枠組みを示した。ただし最終審査の対象は「行政機関が認めることにつき相当の理由」の有無であり,要件該当性が肯定できる場合又は肯否いずれとも判断できない場合は不開示情報に該当するとした。他方,在留期間更新処分に関する最判昭和53年10月4日のような行政の広範な裁量を認める解釈は,要件の抽象性・具体性の相違から本件に妥当しないとした。 その上で,本件報告書の各不開示部分(資料の標目,インタビュー対象者氏名,情報収集・分析,政策検討・意思決定プロセス,武力行使支持に至る過程,米国等への働きかけ,法的根拠の検討,国民への説明責任,教訓と今後の取組,検証チーム構成員氏名等)を個別に検討し,いずれも我が国の情報収集・分析能力のストロングポイント及びウィークポイント,安全保障・外交上の関心事項,政策決定手法等を他国に推知させるものであり,これらの開示は国の安全,他国との信頼関係,外交交渉上の利益に直結すると判断した。インタビュー対象者氏名及び検証チーム構成員の一部氏名については5条5号所定の不開示情報にも該当するとした。 原告主張の類似事案発生蓋然性については,イラクのクウェート侵攻や9.11テロが予測困難であったように類似事態発生はあり得ること,15年経過しても安全保障問題には地域的・軍事能力的・貿易的連続性があることから「おそれ」は消滅しないとした。また「報告の主なポイント」や外国政府の報告書・民間著作等の公表は,政府が公式に認めたことになる本件報告書の不開示情報該当性を否定しないと判断した。公表情報と同一部分の細かい切り分け開示についても,切り分けの具合から不開示部分の内容が推定可能となるおそれがあるとして退け,不開示決定を全面的に支持した。