遺産分割後の価額支払請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30受1583
- 事件名
- 遺産分割後の価額支払請求事件
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 裁判年月日
- 2019年8月27日
- 裁判種別・結果
- 判決・棄却
- 裁判官
- 山崎敏充、戸倉三郎、林景一、宮崎裕子、宇賀克也
- 原審裁判所
- 東京高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 亡Aの相続をめぐる事件である。Aには妻Bと子である上告人がおり,Aの死亡後,両名で遺産分割協議を成立させた。その後,被上告人がAの子であることを認知する旨の判決が確定し,被上告人は相続開始時に遡って相続人としての地位を取得することとなった。 もっとも,被上告人が相続人と認められた時点では既に遺産分割協議が完了していたため,被上告人は現物での分割を請求することができない。そこで民法910条は,このような場合,既にされた分割の効力を維持しつつ,後から認知された者に対しては他の共同相続人から価額の支払を請求できる制度を定めている。本件は,被上告人が上告人に対し,民法910条に基づき価額の支払を求めた事案である。 争いとなったのは,算定の基礎となる遺産の範囲である。本件では遺産分割協議に際して相続債務の負担に関する合意がされており,相続債務の一部はBによって既に弁済されていた。上告人は,価額算定の基礎となる遺産の価額は,積極財産(プラスの財産)から消極財産(借金等のマイナスの財産)を控除した純額とすべきであると主張した。これに対し原審は,控除せず積極財産の価額をそのまま算定基礎とする判断を示したため,上告人がこれを不服として上告受理申立てをした。 【争点】 民法910条に基づき認知された相続人に支払われるべき価額の算定において,その基礎となる遺産の価額は,積極財産のみを対象とすべきか,それとも積極財産から消極財産を控除した額とすべきか。また,他の共同相続人間で相続債務の負担に関する合意がされていたり,既に相続債務の一部が弁済されていたりする場合に,この結論は異なるかが問題となった。 【判旨】 最高裁は上告を棄却し,原審の判断を是認した。 民法910条は,認知された者が遺産分割を請求しようとする場合に,既にされた分割等の効力を維持しつつ,価額支払請求を認めることで共同相続人と認知された者との利害の調整を図る規定である(最高裁平成28年2月26日第二小法廷判決参照)。したがって,同条に基づき支払われるべき価額は,当該分割等の対象とされた遺産の価額を基礎として算定するのが当事者間の衡平の観点から相当である。 そして,遺産分割は積極財産のみを対象とするものであり,消極財産である相続債務は各共同相続人に法律上当然に承継されるものであって,認知された者を含め相続人が法定相続分に応じて負担するものであるから,そもそも遺産分割の対象とならない。 以上から,認知により相続人となった者の民法910条に基づく価額請求において,算定基礎となる遺産の価額は分割対象とされた積極財産の価額であると解するのが相当である。この結論は,相続債務が他の共同相続人によって弁済されていた場合や,共同相続人間で相続債務の負担に関する合意がされていた場合であっても異なるものではない。相続債務は遺産分割協議の枠外にあり,債務の処理をめぐる事情は910条の価額算定に影響を及ぼさないことを明確にした判断である。