特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告(因幡電機産業)は、空調機器の室内機等を吊り下げ支持する際に用いられる「交差連結具」に関する3件の特許権(いずれも発明の名称は「交差連結具」)を保有する企業である。この交差連結具は、天井から垂下される「吊ボルト」と、その振れ止めのために斜めに配置される2本の「ブレースボルト」とを一点で連結し、空調機器の揺れを抑える建築金物であり、施工現場で吊設機器の耐震性を確保するために広く用いられている部材である。 被告(エヌパット)は、同業他社として空調部材等を製造・輸入・販売する会社であり、平成27年12月頃から「被告製品1」、平成28年12月頃から「被告製品2」の販売を開始した。いずれも吊ボルトとブレースボルトを連結する交差連結具であり、第一保持部に対して一対の第二保持部が回動可能に連結され、ブレースボルトを軸方向に沿って挟み込んで保持する構造を備えている。 原告は、被告製品が本件各特許発明の技術的範囲に属し特許権を侵害するとして、特許法100条に基づき被告製品の製造・輸入・販売等の差止めを求めて本訴を提起した。損害賠償請求部分は口頭弁論が分離されて被告が認諾したため、本判決は差止請求の可否のみを判断するものである。 【争点】 主要な争点は、(1)被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか、とりわけ「(挟み込んで)保持する」及び「ベース板部」「取付基部」の各構成要件を充足するか、(2)本件各特許が特許無効審判により無効とされるべきものか(新規事項追加、分割要件違反、進歩性欠如、実施可能要件違反、明確性要件違反の各無効理由の成否)、(3)被告が既に金型を破損処分し販売を中止している状況下でなお差止めを認める必要性があるか、の三点である。 【判旨】 大阪地裁は、原告の請求を全面的に認容した。技術的範囲の属否について、「挟み込んで保持する」とは最終状態において第二保持部が第二棒状体を両側から保持している状態をいい、挿通操作を経るかどうかは問わないと解釈し、被告製品の構成はこれを充足すると判断した。また「ベース板部」「取付基部」についても、明細書の記載を踏まえ被告製品の該当部分が構成要件を満たすと認定し、被告製品1及び2はいずれも本件発明1ないし4の技術的範囲に属するとした。 無効理由については、原出願の当初明細書における「ベース板部」はL字状のものを含むとして新規事項追加及び分割要件違反を否定し、主引用発明である乙1発明(コーナー固定金具)と副引用発明(乙13等の交差固定金具)とは、固定する棒状体の本数も態様も異なり、施工現場で併用されるというだけでは組合せの動機付けは認められないとして進歩性欠如の主張も退けた。実施可能要件違反及び明確性要件違反も、前記の「挟み込んで保持する」の解釈を前提に否定した。 差止めの必要性についても、被告が侵害を争い続けていること、被告製品は汎用性ある金型で製造可能なこと、取引先宛て通知にも販売完全中止は明示されていないこと、在庫処分が全部であるとの裏付けがないこと等から、なお被告製品を新たに製造・販売するおそれが否定できないとして、差止めを命じた。特許権侵害訴訟において、侵害者が訴訟中に製造中止・金型廃棄を行った場合でも、差止請求の必要性(侵害のおそれ)を肯定した実務的に意義ある判断である。