AI概要
【事案の概要】 本件は、「アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法」に関する特許(特許第3668240号)を保有する原告(バロークス プロプライアタリー リミテッド)が、被告(大和製罐株式会社)の請求により当該特許を無効とした特許庁の審決の取消しを求めた審決取消訴訟である。 本件特許は、ガラス瓶に比べ軽量で壊れにくいアルミニウム缶にワインを詰めるという着想に基づく発明である。もっとも、ワインはpHが3〜4と酸性度が高く、缶内部を腐食させやすいため、過去の試みは概ね失敗していた。本件発明は、この課題を解決するため、缶に詰める対象となるワインを、遊離SO2が35ppm未満、塩化物が300ppm未満、スルフェートが800ppm未満という特定の濃度条件を満たすものに限定し、さらに耐食コーティングを内面に施したツーピース缶を用いて、缶内圧力を最小25psiとしてシーリングする方法を特許請求の範囲とするものであった。 被告は平成28年4月、本件特許について無効審判を請求し、特許庁は平成30年2月20日、進歩性欠如(無効理由1)及びサポート要件違反(無効理由3)を認めて、請求項1〜8、10〜15に係る発明について特許を無効とする審決を下した。原告はこれを不服として本訴を提起した。 【争点】 主たる争点は、本件特許がサポート要件(特許法36条6項1号)に適合するか否かである。具体的には、塩化物300ppm未満、スルフェート800ppm未満という数値範囲について、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らして、当業者が当該数値範囲の全体にわたって発明の課題(ワインの味質が保存中に著しく劣化しないこと)を解決できると認識できるか否かが問われた。 【判旨】 知財高裁第4部は、以下の理由により原告の請求を棄却し、特許無効審決を維持した。 裁判所はまず、本件発明の課題は「アルミニウム缶内にパッケージングしたワインの味質が保存中に著しく劣化しないようにすること」であり、課題解決の可否は味覚パネルによる官能試験によってしか確認できないものと認定した。 その上で、本件明細書の実施例(白ワイン保存評価試験)において「許容可能なワイン品質が味覚パネルによって確認された」とされたワインにつき、保存開始時の塩化物及びスルフェート濃度の具体的開示がなく、仮にその濃度が請求項の数値範囲内であったとしても、上限値に近い値であったとは理解できない以上、特許請求の範囲で規定される数値範囲の全体にわたり味質劣化が生じないことが確認されたとはいえないと判断した。 また、遊離SO2、塩化物、スルフェート以外にも、リンゴ酸・クエン酸等の有機酸がアルミニウムの腐食原因となることは本件優先日当時の技術常識であったところ、明細書には試験に用いたワインの組成や耐食コーティングの具体的組成の記載がないため、試験結果がどの要素に起因するか当業者には不明であり、塩化物と硫酸塩の濃度のみを規定することで課題解決が図られると認識することはできないとした。 以上から、本件発明1はサポート要件に適合せず、これを引用する請求項2〜8、10〜15も同様にサポート要件違反であるとする審決の判断に誤りはないとして、その余の取消事由(進歩性)を判断するまでもなく原告の請求を棄却した。本判決は、数値限定発明におけるサポート要件の判断基準として、数値範囲全体にわたる課題解決の認識可能性を厳格に要求した先例として実務上重要である。