AI概要
【事案の概要】 本件は、そうめん流し器の意匠権および商品形態をめぐる知的財産権侵害訴訟である。原告株式会社ハックは、吐水口が設けられた上部から下部のトレイ部にそうめんを流すためのレール部を有する、いわゆる「ウォータースライダー型」のそうめん流し器に関する意匠権(登録第1551624号、平成28年5月13日登録)を有し、「流しそうめん 風流 極」(原告新商品)を販売してきた。これに対し、被告時代健康研究株式会社は、平成29年3月以降、同種のそうめん流し器「素麺物語」(被告商品)を製造・販売していた。 原告は、被告商品の形態が本件登録意匠に類似するとして、意匠法37条に基づき被告商品の製造販売等の差止め、廃棄および損害賠償金約636万円の支払を求めるとともに、予備的に、不正競争防止法2条1項1号(周知商品等表示混同惹起行為)および同項3号(商品形態模倣行為)に基づく請求も行った。被告は、本件登録意匠の無効を主張して意匠登録無効審判を請求したが、特許庁は平成31年3月20日に請求不成立の審決を下し、当該審決は確定していた。 【争点】 主要な争点は、本件登録意匠と被告意匠の類否である。特に、従来「ウォータースライダー型」のレール部を備えるものと、上面が開口したトレイ中央に回転器を配置する「流水プール型」とは別個の類型として存在していたところ、両者の構成を組み合わせた本件登録意匠の要部をどこに見出すかが問題となった。被告は、本件登録意匠の要部は吐水口部分の形状であり、レール部やトレイ部の形状は公知意匠と共通するため要部にならないと主張した。また、被告は意匠法104条の3により無効理由(新規性欠如・創作非容易性欠如)を主張したが、確定審決と同一事実・同一証拠に基づく主張が許されるかも争点となった。 【判旨】 大阪地裁第26民事部(杉浦正樹裁判長)は、本件登録意匠の要部を、水路部のレール部と回転器を有するトレイ部とが結合して成る形状であると認定した。出願前にはウォータースライダー型と流水プール型が別個に存在するのみで、両者を組み合わせた構成は公知意匠には見られない新規な特徴であり、需要者はそうめんの流れ方やすくい取りやすさに関心を持つことから、レール部とトレイ部の結合形状に注目すると判断した。その上で、被告意匠も両者を結合した構成を備えており、吐水口部分の形状の差異などは全体の印象を左右するものではないとして、被告意匠は本件登録意匠に類似するとした。 無効理由の主張については、意匠法52条が準用する特許法167条により、確定審決と同一の事実・証拠に基づく無効審判請求は許されず、同条に該当する事情があるときは意匠法41条が準用する特許法104条の3の無効主張もできないとして、被告の主張を排斥した。 損害額については、被告の売上・経費資料から販売利益合計104万4582円を認定し、意匠法39条2項により同額を原告の損害と推定した。原告が主張する1個当たり利益894円・合計636万円余の算定は採用しなかった。また、被告は既に在庫を保有していないため廃棄請求は必要性を欠くとして棄却した。 結論として、被告商品の製造販売等の差止めおよび104万4582円の損害賠償を認容し、その余の主位的請求と予備的請求をいずれも棄却した。