特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、屈折計(液体の屈折率を測定する計測機器)に関する特許権を有する原告が、被告製品(コンパクト糖度計「ASRE1000」)を被告が韓国の製造業者から輸入し日本国内で販売する行為が本件特許権を侵害するとして、被告に対し、特許法100条1項に基づく輸入・使用・譲渡等の差止め、同条2項に基づく被告製品の廃棄、民法709条及び特許法102条2項に基づく損害賠償金627万2000円の支払を求めた事案である。原告の特許は、「屈折計」に関するもので、プリズム境界面で全反射が生じる臨界角を精度よく検出するため、光電センサの受光量から得られる光量分布曲線の一次微分曲線の重心位置(Pc’)を式(1)で算定し、これに屈折率既知の試料を用いた実験で予め決定した定数Cを加算して臨界角点(Pc)を求めるという計算手法(式(2):Pc=Pc’+C)を特徴としていた。被告製品は、ループ演算により重心位置Znを13回算出し、さらにその平均Pkを5回算出して臨界角点を求めたうえ、水のアドレス値を差し引くゼロ調整を行う構造となっていたため、原告特許の構成要件E(式(1)及び式(2)による算定)を充足するかが最大の争点となった。 【争点】 第一に、被告製品が構成要件Eを充足するか。第二に、本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものか(乙2発明に基づく進歩性欠如、サポート要件違反、分割要件違反に伴う新規性欠如)。第三に、原告の損害額である。 【判旨】 東京地裁は原告の請求を一部認容し、被告製品の輸入・使用・譲渡等の差止め及び廃棄を認めたうえ、損害賠償として69万8451円及び遅延損害金の支払を命じた。構成要件Eの充足性については、被告製品の式(A)は変形すれば式(1)と実質的に同一であり、重心位置を求めるという技術的思想を共通にするため、当業者からみて両式は実質同一と認識されると判断した。また、被告製品が試料のアドレス値から水のアドレス値を差し引く計算は、実質的には試料の重心位置に「屈折率が既知である水を用いた実験により予め決定された定数」を加算する計算と同義であり、式(2)を充足すると判示した。無効主張については、乙2発明(理論光量分布曲線による補間により臨界点を直接求める技術)には光量分布曲線の一次微分曲線の重心位置を利用する点の記載・示唆がなく、乙3発明(物体のエッジ位置検出に関する光学測定装置)は技術分野・課題を異にするため組合せの動機付けを欠くとして進歩性欠如の主張を排斥した。サポート要件違反、分割要件違反に伴う新規性欠如の主張についても、本件明細書等には本件発明の技術的事項が全て記載されており、本件原出願当初明細書にも本件発明が記載されていたとしていずれも否定した。損害額については、特許法102条2項に基づき被告の利益額63万8451円を原告の損害と推定し、弁護士・弁理士費用6万円を加えた合計69万8451円を認容した。本判決は、計算式の形式的差異を超えて技術的思想の実質的同一性に踏み込んで構成要件充足性を判断した事例として実務的意義を有する。