発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、アダルトビデオの制作・販売を業とする原告会社が、経由プロバイダである被告(ニフティ株式会社)に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき発信者情報の開示を求めた事案である。原告は、「ディープス」を旧商号かつ登録商標とし、同名をレーベル名として用いて全国にアダルトビデオ作品を流通・販売している。平成30年9月、原告が著作権を有する本件作品の一部を左右反転させた動画が、氏名不詳者(発信者)によって米国法人FC2社が運営する動画投稿サイト「FC2動画」に無断でアップロードされ、発見時点で再生回数は2万9967回に達していた。原告は、米国ネバダ連邦地方裁判所において、米国デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づきFC2社に対する発信者情報開示命令を取得し、FC2社からアップロードに使用されたIPアドレス(経由プロバイダが被告)の開示を受けた。そこで、原告は、発信者に対する損害賠償請求権行使のため、被告が保有する契約者の氏名・住所・電子メールアドレスの開示を求めて本訴に及んだ。 【争点】 争点は、原告が本件作品の著作者であるか否か(争点1)と、被告が保有する発信者情報の開示を原告が請求し得るか否か(争点2)である。被告は、DVDパッケージに表示された「ディープス」が著作権法14条の定める「著作者名の通常の方法による表示」に当たらず原告の著作者性は立証されていない、本件IPアドレスが本件動画のアップロードに使用された事実も証拠上明らかでない、本件動画が実際に不特定多数の者に送信可能な状態にあったかも立証不十分である、等と争った。 【判旨】 東京地裁は原告の請求を全部認容した。著作者性について、本件作品のDVDパッケージ裏面に「DEEP'S」のロゴと共に「制作・著作・受審/ディープス」と表示され、これが原告のダウンロード・ストリーミング配信用ウェブページにも掲載されていること、「ディープス」が原告の旧商号かつ登録商標であり、レーベル名としてアダルトビデオ業界で広く知られていることから、著作物が公衆に提供・提示される際に原告の変名として周知の呼称が通常の方法で著作者名として表示されていると認定し、著作権法14条により原告は本件作品の著作者と推定され、その推定を覆す証拠はないとした。発信者情報開示請求については、発信者がアップロード画面上で不特定多数の者が視聴可能な状態を現実に作出していたこと、FC2社が原告から該当URLを示されて発信者特定情報として本件IPアドレスを開示した以上、当該IPアドレスがアップロードに使用されたものと推認されること、他のIPアドレスが用いられたことをうかがわせる証拠がないことから、公衆送信権侵害の明白性を肯定した。そして、原告が発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求を予定している以上、プロバイダ責任制限法4条1項所定の開示を受けるべき正当な理由があるとして、被告保有情報の開示を命じた。本判決は、海外プラットフォームを経由した著作権侵害について、米国DMCA手続で取得したIPアドレス情報を端緒として国内経由プロバイダに対する発信者情報開示を認めた事例であり、国境を越える侵害行為への実務対応として意義を有する。