AI概要
【事案の概要】 本件は、ユニフォームや作業服の企画・製造・販売を業とする原告(株式会社サンエス)が、ファンを用いた衣料品等の開発・製造・販売を業とする被告に対し、いわゆる「空調服」(内側に小型電動ファンを取り付け、風を流して汗を気化させ涼しく過ごせるようにした作業服)をめぐる紛争について提起した事案である。 原告は、自社が販売する空調服(品番KU90550の原告製品1、品番KU91400の原告製品2)の形態及び品番が、需要者の間に原告の「商品等表示」として周知であるにもかかわらず、被告が類似する形態・品番の空調服を販売しているとして、不正競争防止法2条1項1号(周知表示混同惹起行為)及び同項3号(形態模倣行為)に基づき、被告製品の製造販売等の差止めと4160万円の損害賠償を求めた。また、選択的に、被告の親会社セフト研究所との間で協業関係終了後は相互に相手方の投資結果を利用しないとの黙示の合意が成立していたとして、債務不履行に基づき同様の請求もした。 空調服は、被告代表者が開発を企図し、平成14年に原告取締役と意見交換を開始して以降、被告親会社と原告との間で平成15年覚書、平成17年取引基本契約書、平成24年取引基本契約書が順次締結され、被告が原告に製造を委託し、セフト研究所がファン部分の特許を保有するという分業体制で市場に供給されてきたものである。 【争点】 主な争点は、原告製品の形態及び品番が不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」として需要者間に広く認識されているか(周知性)、原告製品2の形態が被告にとって「他人の商品の形態」に該当するか、そして協業関係終了後の被告の利用を禁ずる黙示の合意の成否である。 【判旨】 東京地裁民事第47部(田中孝一裁判長)は、原告の請求をいずれも棄却した。 まず形態の商品等表示性につき、ファン取り付け用開口部(本件開口部形態)以外の形態は作業服として一般的な域を出ず顕著性を欠くとし、本件開口部形態自体もファンという機能を備える作業服であれば一般的に採用される形態にすぎず、特別顕著性を備えているといえるか疑問が残るとした。 その上で、仮に特別顕著性を認めたとしても周知性が認められないと判示した。すなわち、①本件開口部形態を有する空調服は、被告及び親会社セフト研究所が試作段階から相当程度関与し、両者が協力して共同開発したものであり原告単独の成果ではない、②商流上も、被告が原告に製造を委託し全量納入させて販売する立場にあり、原告は一部の買戻し又はライセンスを受けての自社販売分にすぎない、③原告と被告の販売実績はほぼ拮抗しており、被告もインターネット広告やテレビ放送、新聞雑誌等で同様の形態の作業服を広告宣伝していた、という点を指摘し、原告が被告を排して独占的に当該形態を使用していたとは評価できず、当該形態が被告を排して原告のみの出所表示として需要者層に浸透していたとも認められないとした。 品番についても、個別製品を示す英数字の符号にすぎず、自他商品識別機能を獲得していたと認めるに足りる事情はないとして商品等表示性を否定した。 形態模倣(2条1項3号)の点についても、被告が開発段階からリスクを負担して商品化に関与したと認め、原告製品2の形態は被告にとって「他人の商品の形態」に該当しないとした。黙示の合意に基づく債務不履行の主張も、各契約書に排他的な役割分担の記載がなく、ファンのみならず服本体の開発についても被告側が相当程度貢献したとして、合意の成立を否定した。 本判決は、共同開発に近い形で市場に供給された商品について、形式的な販売主体ではなく実質的な開発関与と商流を踏まえて周知性や「他人」該当性を判断した点に実務的意義を有する。