AI概要
【事案の概要】 本件は、分譲マンションの建設を巡る近隣トラブルから生じた損害賠償請求事件である。被告らは、名古屋市内の住宅街に総戸数70戸・地上15階建ての分譲マンションを建設するため、平成28年7月から平成30年3月にかけて工事を行った。原告らを含む周辺住民は、日影や圧迫感などを理由に建設計画に反対し、平成27年11月頃から建設現場西側の歩道でスタンディングやのぼりの設置などの反対運動を展開した。反対運動は次第にエスカレートし、工事車両の前に立ちはだかる、工事区画に立ち入るなどの行為が繰り返され、警察官が出動する事態や、反対運動の中心人物であった原告Cが暴行罪で現行犯逮捕される事件(後に無罪判決)も発生した。 被告らは、平成28年7月以降、建設現場の仮囲いや現場事務所に合計10台の防犯カメラ(うち2台は平成29年7月に追加設置されたダミーカメラ)を設置し、現場周辺を24時間撮影した。原告らは、これらの防犯カメラにより自宅への出入りや反対運動の様子が常時撮影されたことで、肖像権、プライバシー権、および反対運動を行う表現の自由・集会の自由が侵害されたと主張し、被告らに対して共同不法行為に基づく慰謝料各100万円の支払いを求めて本件訴訟を提起した(撤去請求はマンション完成に伴い取下げ)。 【争点】 被告らによる本件各防犯カメラの設置および撮影が、原告らの肖像権等に対する制約として社会生活上の受忍限度を超えるものであるかが争点となった。原告らは、10台という異常な設置台数は反対運動を監視・威嚇する目的であると主張したのに対し、被告らは盗難・不法投棄防止と、反対運動による工事妨害に備えた犯罪行為等の証拠保全が目的であると反論した。 【判旨】 名古屋地裁は、肖像権等への制約が不法行為法上違法となるためには、撮影の場所・範囲・態様・目的・必要性、画像の管理方法、制約の程度等を総合考慮して受忍限度を超える必要があるとの判断枠組みを示した上で、撮影機能を有する防犯カメラ3ないし10(8台)については、反対運動の過激化により工事車両の進入阻止や警察出動が頻発していた実態に照らせば、小競り合い等の不測の事態に備えた証拠保全の必要性が認められ、撮影範囲も主として仮囲いと接する公道に限られ、首振り機能もなく、画像が目的外に使用された形跡もないとして、受忍限度を超える制約とは認められないと判示した。 他方、ダミーカメラである防犯カメラ1については、原告A宅南側面に向けて設置され、撮影機能を有するカメラと同一形状で夜間にLEDが点灯する仕様であったこと、設置時期が原告Aによる騒音苦情・訴訟提起の時期と重なること、被告らが主張するごみの不法投棄防止目的には合理性が認められないことから、合理的な理由なく原告Aに監視されているとの不快感を与え、その平穏な生活を害するものであるとして不法行為の成立を認め、慰謝料5万円の支払いを命じた。原告B、C、Dの請求および原告Aのその余の請求はいずれも棄却された。本判決は、建設現場における防犯カメラ設置の適否について、周辺住民の反対運動の態様と証拠保全の必要性を比較衡量する判断枠組みを示した事例として、近隣紛争における監視カメラ問題の実務上の指針となる。