職務上義務不存在確認等請求控訴事件,同附帯控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成31行コ30
- 事件名
- 職務上義務不存在確認等請求控訴事件,同附帯控訴事件
- 裁判所
- 大阪高等裁判所
- 裁判年月日
- 2019年9月6日
- 裁判官
- 江口とし子、角田ゆみ、森鍵一
- 原審裁判所
- 大阪地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、大阪市交通局の地下鉄運転士として勤務していた被控訴人ら2名が、ひげを剃って業務に従事する旨の職務命令又は指導に従わなかったことを理由に、平成25年度・26年度の人事考課において低評価を受けたことをめぐる事案である。被控訴人らは、交通局が制定した身だしなみ基準(「整えられた髭も不可」とする内容)及びこれに基づく上司の指導、並びに低評価査定は、ひげを生やす自由という人格権を侵害する違法なものであると主張した。そして、大阪市に対し、任用関係に基づく請求として、本来支給されるべき勤勉手当との差額(被控訴人Aにつき約12万円、Bにつき約6万5000円)の支払を求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等として各220万円の支払を求めた。原判決は差額賞与請求を棄却する一方、国賠請求につき各22万円(慰謝料20万円+弁護士費用2万円)の限度で認容したため、敗訴部分を不服とする大阪市が控訴し、被控訴人らが附帯控訴した。被控訴人らは当審において、予備的請求として差額賞与相当額の国賠請求も追加した。 【争点】 主な争点は、①本件身だしなみ基準の制定自体が国賠法上違法か、②上司らによるひげを剃るようにとの指導・発言が違法か、③本件各考課が人事権の裁量を逸脱した違法なものか、④差額賞与請求権又は同額の損害賠償請求権が成立するか、⑤慰謝料額の相当性である。 【判旨】 大阪高裁は控訴・附帯控訴をいずれも棄却した。まず、ひげを生やす自由は個人の外観に関する個人的自由に属するが、少なくとも現時点で憲法上の権利として保障されているとまでは認められないとし、労働の場における服務規律は、事業遂行上の必要性と合理性が認められる限度で拘束力を持つとの枠組みを示した。本件身だしなみ基準については、交通局が乗客サービスを理念とし顧客獲得競争も存在することからすれば、身だしなみを整える服務規定に一定の必要性・合理性が認められ、ひげを全面禁止するものではなく職員の任意の協力を求める趣旨と解すべきであるから、制定自体が違法とまではいえないとした。もっとも、被控訴人Bに対する平成24年12月のC運輸長の「守らなければ処分の対象とする」との発言は、人事処分や退職を示唆してひげを剃るよう求めたものであり、国賠法上違法であると認めた。また、本件各考課については、絶対評価で通常3点が付与される運用の下、被控訴人らに2点・2.5点が付されたことは減点評価であり、所長自身も「ひげを生やしていることだけが理由」と述べていたことなどから、単にひげを生やしていることを主たる減点事由とした違法な人事評価であって、人事権の裁量を逸脱・濫用したものであると判断した。他方、差額賞与については、絶対評価で3点が付与されたとしても相対評価で第3区分になるとは限らないため、差額相当額の損害発生を認めることはできないとして、賞与請求及びこれに代わる国賠請求をいずれも退けた。慰謝料は各20万円(弁護士費用2万円を加え22万円)をもって相当とし、組織的・継続的ハラスメントとまでは評価できないとした。