AI概要
【事案の概要】 本件は、損害保険会社である原告が、飲食店経営者である被告との間で自動車保険契約を締結した後、被告から3件の保険事故の申告を受け、うち2件について保険金を支払ったものの、いずれの事故も実際には発生しておらず、被告の申告は不正なものであったとして、民法709条の不法行為に基づき、既払保険金、調査費用及び弁護士費用の合計341万2694円の損害賠償を求めた本訴事案である。併せて、保険金未払の1件につき、被告が保険契約に基づき保険金85万8800円の支払を求めた反訴が提起された。 被告は、平成24年8月、自宅車庫入れの際に本件車両1の左右側面を壁と支柱に衝突させたとする事故(第1事故)、同年11月に本件車両1が車上荒らしに遭いカーナビ等を盗まれたとする事故(第2事故)、平成25年4月に本件車両2を後退させた際に従業員Aの車両に追突したとする事故(第3事故)をそれぞれ申告した。第1事故と第2事故については、車両の修理先とされた補助参加人(自動車修理業者)に対して合計116万円余りの保険金が支払われたが、第3事故は原告が支払を拒絶した。 【争点】 各保険事故が実際に発生したものか、それとも被告による不正請求であったかが中心的な争点となった。 【判旨】 裁判所は3件の事故すべてについて、被告の主張する事故態様が客観的な損傷状況と整合せず、不正請求であると認定した。 第1事故については、ハンドルを左に切りながら後退した場合に最も損傷が激しくなるはずの左後輪部に軽微な擦過痕しかない一方、それより壁から離れるはずの左リヤドアパネル等に大きな損傷が生じている点など、被告主張の事故態様では説明がつかない損傷状況が多数認められた。加えて、被告が本人尋問で事故の時刻・状況・修理に関する最も基本的な事柄まで「覚えていません」と繰り返した点も、記憶の減退では説明できないほど不自然であるとした。 第2事故については、盗まれたとされるカーナビと同機種のものが事故後も本件車両1に搭載され続けていたこと(同機種は製造終了済み)、見積書に計上されたキーシリンダー・インストルメントパネルの取替修理が実際には行われていなかったこと、被告が主張していた警察への被害届提出が厚別警察署長の回答書により虚偽と判明したこと、一般的な車上荒らしの手口(ガラス割損・配線切断等)と合致しない点等から、不正請求と認定した。 第3事故については、後退車両が追突した場合に生ずるはずのスクォウト現象(進行方向側の浮き上がり)と逆に、本件車両2の損傷位置がA車両より約7cm高いこと、20年以上経過し一時抹消登録されたまま放置されていた車両を購入直後にわずか3か月で車両保険を高額付保したこと、被告と同乗者Aの供述に多数の齟齬があることなどから、やはり事故発生の事実を認めなかった。 以上より、被告の不法行為と相当因果関係のある損害として、既払保険金116万7830円、調査費用193万4864円、弁護士費用31万円の合計341万2694円を認容し、本訴請求を全部認容するとともに、反訴請求を棄却した。保険金不正請求事案における調査費用を相当因果関係ある損害として認めた点が実務的に重要である。