AI概要
【事案の概要】 本件は、大型パチンコ店へ景品を納品して現金を集金する会社の従業員が、1人で多額の現金を搬送していたところを狙って行われた傷害・窃盗事件である。被告人両名は幼少期からの友人関係にあり、被告人Dが被害会社における現金搬送状況を把握した上で本件窃盗を提案し、単独でも下見を繰り返した。被告人らは、被害会社の従業員が常に1人で現金を搬送していることなどを複数回の下見で確認し、犯行計画を練り上げた。 平成30年10月5日午前10時45分頃、愛知県知立市内のパチンコ店駐車場において、実行役を担当した被告人Cが、現金3000万円入りの手提げバッグを持って歩いていた被害者(当時35歳)の背後から体当たりし、被害者を転倒させた上、同人が現金入りバッグから手を放した隙をついてバッグを奪い去った。被告人Dは、犯行現場付近において逃走用車両を準備して待機する役割を担った。被害者は、この体当たりによって全治まで約1週間を要する頚椎打撲、頭部打撲等の傷害を負った。 被告人らは逮捕され、逮捕後に押収された1100万円が被害会社に還付された。また、被害会社が加入していた保険により全額の被害回復がされたが、被告人らは保険会社に対し合計1400万円を支払い、保険会社がその余の請求を放棄する内容で示談を成立させた。還付金と合わせると、窃取した現金の8割以上に相当する部分について実質的な被害回復がされた。検察官は懲役3年6月を求刑した。 【判旨(量刑)】 名古屋地方裁判所岡崎支部は、被告人両名をそれぞれ懲役3年に処した上で、5年間その刑の執行を猶予した。 裁判所は、本件が多額の現金を窃取するという一定の計画性を持って行われた粗暴な犯行であり、被害も現金3000万円と極めて高額で結果は重大であるとして、犯情は強く非難されるべきものと評価した。役割分担についても、実行行為を担当した被告人Cの役割は大きく、被告人Dも窃盗を提案し下見を繰り返し逃走用車両を準備するなど不可欠な役割を果たしており、両名の刑責に差異はないと判断した。これらの犯情からすれば、実刑に処すことも当然考えられるとした。 しかしながら、傷害についての計画性は高くなく、幸いにも重い結果とはならなかったこと、保険会社経由ではあるが全額の被害回復がされ、示談も成立していること、被告人らが罪を認め誠実に対応する旨述べて反省の態度を示していること、更生を支援する家族がいること、前科前歴がないこと、懲戒解雇ないし懲戒免職という社会的制裁を受けていることなど、被告人らのために考慮できる一般情状を総合考慮し、今回に限り執行を猶予して社会内での更生の機会を与えるのが相当と判断した。多額現金搬送を狙った計画的な路上窃盗事案において、被害回復と社会的制裁を重視して実刑回避の判断がなされた事例として実務的に参考になる。