職務発明対価請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、株式会社日本触媒(被告)の元従業員である原告が、在職中に共同発明者として関与した吸水材関連の職務発明について、特許を受ける権利を被告に承継させたことへの対価を求めた事案である。原告は昭和63年4月から平成12年6月まで被告に雇用され、連続気泡構造を有する多孔質架橋重合体フォーム(Foam Absorbent Material、通称FAM。紙おむつや生理用品の吸液体として使用される)の研究開発に従事した。 対象となった特許は、日本の特許3件(特許第4406144号、第4749642号、第4766811号)と、これらに対応する米国・欧州の外国特許である。144号発明等は、油中水滴型高分散相エマルション(HIPE)を用いたFAM製造工程で発生する大量の廃水を再使用する技術、642号発明等はHIPEの水平連続重合とフィルム材選定に関する発明、811号発明等は前段重合と後硬化のタイミングを臭素価で特定することで重合時間を短縮する発明である。 原告は、これらの発明は自らが主導した成果であるとして、特許法35条3項(平成16年法律第79号改正前のもの)またはその類推適用に基づき、相当対価合計のうち5862万8568円と遅延損害金の支払を請求した。被告は社内の職務発明取扱規定に従い出願補償金・登録補償金(合計13万6015円の報奨金決定通知を含む)を支払済みであるとして、請求を争った。 【争点】 主たる争点は相当の対価の額であり、具体的には、(1)本件各発明により被告が受けるべき利益の額、(2)本件各発明に対する被告の貢献度、(3)共同発明者間における原告の貢献度の3点である。原告は被告の貢献度は50%を超えないと主張し、被告は被告の貢献度は99%であると主張した。また原告は各発明における自らの共同発明者間の貢献度が90%を超えると主張したのに対し、被告は均等割を超えることはないと反論した。 【判旨】 東京地裁は、被告が平成5年からHIPE重合物の研究を開始し、平成8年以降は原告を含む複数の研究員にFAM開発を指示し、平成9年10月には全社的プロジェクトを立ち上げて多数の従業員と設備投資(機器調達に約1億円、国内外特許費用に約1億円)を投入した経緯を認定した。そして、共同発明者らは被告の費用負担のもと、被告入社後に得た知識経験とプロジェクト内の情報共有を通じて発明に至ったのであり、本件各発明により被告が受けるべき利益に対する被告の貢献度は95%と認めるのが相当であると判断した。 共同発明者間における原告の貢献度については、144号発明等は原告を含む4名の発明者のうち4分の1、642号発明等は9名の発明者のうち9分の1(原告はHIPE連続重合の着想には関与していないと認定)、811号発明等は4名のうち5分の2(原告のペンダント二重結合定量化への貢献を評価)と認定した。 以上を前提に、出願補償金・登録補償金として既払の金額を控除して算出した結果、相当対価の合計額は226万4061円となり、この限度で請求を認容し、その余を棄却した。職務発明対価をめぐる判断において、会社の研究開発投資や組織的貢献を重視する近年の裁判例の傾向を示す一例といえる。