AI概要
【事案の概要】 元知事・元市長で弁護士・コメンテーターとして活動する原告が、ジャーナリストである被告に対し、ツイッター上の投稿が名誉毀損に当たるとして、慰謝料及び弁護士費用合計110万円の支払いを求めた事案である(本訴)。被告は、フォロワー18万人超のアカウントから、第三者の元ツイートを何らコメントを付さずにリツイート(引用投稿)する形で、「原告が30代で知事になった際、20歳以上年上の幹部たちに生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか、恥を知れ」との内容を投稿した。これに対し被告は、原告の本件提訴が言論活動の抑圧を目的とする戦略的訴訟(スラップ)に当たるとして、300万円の支払いを求めて反訴した。 【争点】 主たる争点は、(1)コメントを付さないリツイートにつき被告を表現主体として責任を問えるか、(2)本件投稿が事実摘示か意見論評か及び原告の社会的評価を低下させるか、(3)公共性・公益目的・真実性ないし真実相当性による違法性阻却の可否、(4)本件提訴がスラップとして訴権濫用に当たるか、である。 【判旨】 大阪地裁は、一部認容・反訴棄却とし、被告に33万円及び遅延損害金の支払いを命じた。まずリツイートの責任主体性については、ツイッターの性質を踏まえても、コメントを付さずに元ツイートをそのまま引用する行為は、一般閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、特段の事情がない限り元ツイート内容に賛同する意思を示す表現行為と解するのが相当であるとし、被告自身の発言として責任を負うと判断した。次に本件投稿の性質については、「生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだ」との記載は、原告が生意気な口をきいた幹部と自殺した人物とを別人と示す記載がないことなどから、「知事であった原告が幹部職員に生意気な口をきき、その誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示するものと認定し、これは原告を部下を自殺に追い込むパワハラ人物との印象を与え、社会的評価を低下させるとした。違法性阻却については、公共性は認めたものの、被告自身が原告の言動を直接受けた職員の自殺の事実を認識していなかったと供述していることから、摘示事実の重要部分は真実でなく、真実相当性も認められないとして、公正な論評の法理による違法性阻却も否定した。慰謝料は、被告の社会的影響力とフォロワー数、インターネット表現の削除困難性、他方で本件提訴までに削除されていることなどを総合考慮し30万円、弁護士費用3万円と認定した。反訴については、本訴請求に理由がある以上、本件提訴がスラップに該当する余地はないとして棄却した。本判決は、無言のリツイートであっても賛同の意思表示として元ツイートと同一内容の表現責任を負うことを示した点に意義があり、SNS時代の名誉毀損法理の発展に重要な示唆を与えるものである。