精神保健指定医の指定の取消処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、精神保健指定医の指定を受けていた医師である原告が、厚生労働大臣から「指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当するとして指定取消処分を受けたため、同処分の取消しを求めた事案である。 精神保健指定医は、措置入院・医療保護入院等の要否を判定する権限を持つ医師であり、精神保健福祉法18条1項に基づき、一定の診療経験(6種類の精神障害につき合計8例以上の症例経験)を有する者の中から厚生労働大臣が指定する。申請者は症例ごとにケースレポートを提出する必要があり、「指導医の指導のもとに自ら担当として診断又は治療等に十分な関わりを持った症例」であることが求められる(関与基準)。 原告は平成24年、本件病院に勤務していた医師として指定医の指定を受けたが、その申請の際、器質性精神障害等の症例として、髄膜腫摘出術後に幻覚妄想状態となり医療保護入院となった患者に関するケースレポートを提出していた。当該症例は、指導医であるC医師、先任のE医師、原告の3名による複数主治医体制で診療されたもので、診療録上の原告による記載は4点にとどまっていた。 厚生労働省は、他医療機関での不正ケースレポート発覚を契機として全国的な調査を行い、本件患者の診療録上、原告の記載が少ないことから、原告が自ら担当として診療に十分な関わりを持った症例とは認められないと判断し、指定取消処分をした。 【争点】 原告が本件症例について「自ら担当として診断又は治療に十分な関わりを有していた」と認められるか、すなわち本件ケースレポートが関与基準を満たしていたか。 【判旨】 東京地裁は、本件処分を取り消した。 裁判所はまず、精神保健福祉法19条の2第2項の処分要件該当性判断は厚生労働大臣の合理的裁量に委ねられているが、重要な事実の基礎を欠くか社会通念上著しく妥当性を欠く場合には違法となるとの判断枠組みを示した。 その上で、本件では、経験の異なる3名の医師による複数主治医体制が採られ、看護師への指揮系統の混乱を避けるため、E医師及び原告は主観的情報・客観的情報のみを診療録に記載し、情報の評価及び治療計画はC医師が記載するという取決めがされていたと認定。原告による診療録への記載が4点にとどまるのはこの取決めと、診療録が別病棟に保管されC医師が最も記載しやすかった事情によるものであり、関与の程度を否定するものではないとした。 その上で、原告は勤務日ごとに本件患者を診察し、抗精神病薬の投与、食事量に応じた点滴、鎮痛剤投与等について具体的提案を行い、髄膜腫再発発覚時には患者及び家族への説明を任され、聴取記録・診療情報提供書・退院時要約の草稿も作成していたと認定。原告は単なる補助者ではなく、指導医から指導を受ける担当医として期待される役割を果たしていたと評価した。 また、身体症状への関与も、器質性精神障害等の治療が精神科・内科双方の医学的知見を要するものであることから、精神科医としての関わりと評価できるとした。 結論として、本件ケースレポートは関与基準を満たしており、これを不正な作成にあたるとした本件処分は、裁量判断の前提となる重要な事実の基礎を欠くものとして裁量権の逸脱・濫用にあたり違法と判断された。