請求異議事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30受1874
- 事件名
- 請求異議事件
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 裁判年月日
- 2019年9月13日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄差戻
- 裁判官
- 菅野博之、山本庸幸、三浦守
- 原審裁判所
- 福岡高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、国営諫早湾土地改良事業として諫早湾の干拓事業を行った国(被上告人)が、有明海沿岸の漁業協同組合の組合員である漁業者ら(上告人ら)に対し、先行訴訟の確定判決に基づく強制執行を許さないよう求めた請求異議訴訟である。 諫早湾では、干拓のために潮受堤防が築造され、北部・南部の各排水門によって湾内の水が閉め切られた。これにより有明海の漁業環境が悪化したとして、漁業者らは、共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく妨害排除・妨害予防請求権により、主位的に堤防撤去、予備的に排水門の常時開放を求めて提訴した(前訴)。 前訴では、佐賀地裁が平成20年に、福岡高裁が平成22年に、「判決確定の日から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き排水門を開放し、以後5年間にわたって開放を継続せよ」との特殊な主文で一部認容判決を言い渡し、いずれも確定した(本件各確定判決)。 ところが、本件各確定判決の前提となった共同漁業権(本件各漁業権1)は、平成25年8月31日に存続期間満了で消滅し、同年9月1日に同一内容で存続期間を平成35年8月31日までとする新たな共同漁業権(本件各漁業権2)の免許がされた。国は、本件各漁業権1の消滅により開門請求権も消滅したとして、確定判決の執行力排除を求めた。原審(福岡高裁)はこれを認容したため、漁業者側が上告した。 【争点】 本件各確定判決に係る開門請求権が、存続期間満了により消滅した本件各漁業権1のみを基礎とするものか、それとも再度免許された本件各漁業権2をも基礎とするものとして包含しているかが争点である。 【判旨】 最高裁は原判決中上告人らに関する部分を破棄し、福岡高裁に差し戻した。 本件各確定判決は、主文において「判決確定の日から3年を経過する日までに開門し、以後5年間にわたって開門を継続せよ」と命じており、本件各漁業権1の存続期間末日である平成25年8月31日を経過した後にも開門継続を命じていたことが明らかである。また、前訴において漁業者らはもともと堤防撤去や即時開門を求めており、将来発生する共同漁業権について明示的主張がなくても不自然ではない。 そうすると、本件各確定判決を合理的に解釈すれば、本件各漁業権1が存続期間経過により消滅しても、同一内容の共同漁業権が再度付与される蓋然性があることを前提として、平成25年9月1日頃に免許されるであろう新たな共同漁業権(本件各漁業権2)から派生する漁業行使権に基づく開門請求権をも認容したものと理解するのが相当である。したがって、本件各漁業権1から派生する開門請求権の消滅のみをもって、本件各確定判決の異議事由とはならない。 もっとも、本件各確定判決は将来予測に基づき、開門時期に3年の猶予、開門期間を5年間に限定するという特殊な主文を採った暫定的性格を有する債務名義であり、前訴口頭弁論終結から長期間が経過している。最高裁は、事情の変動により強制執行が権利濫用となるかなど、他の異議事由の有無につきさらに審理を尽くさせるため、原審に差し戻した。 【補足意見】 菅野博之裁判官の補足意見は、本件訴訟の中核的争点を事情変動による権利濫用の成否と位置づけ、本件各確定判決が漁獲量減少の程度や堤防の防災機能等、自然環境・社会環境に関わる可変的事情を前提とした利益衡量に基づくものであり、相当の不確実性を内包した暫定的・仮定的判断であったことを指摘する。その上で、差戻審ではこうした特殊性・暫定性を十分に踏まえ、前訴口頭弁論終結後の事情変動や長期間の経過それ自体の評価、その後積み重ねられた関連司法判断も考慮して、権利濫用の成否を総合判断すべきとする。 草野耕一裁判官の意見は、本件各漁業権が経済的利益を中核的保護法益とするものであることに着目し、国が確定判決履行のため支出すべき金額が、履行により回避し得る漁業者の損害額を上回り、かつ、漁業者が受領した間接強制金(平成30年2月9日時点で累計約10億6830万円)により損害全額の弁済と同視し得る事態が生じているならば、別段の事由のない限り強制執行は権利濫用に当たると解すべき旨の独自の判断枠組みを示し、事実認定を要するため差戻しに賛同した。