AI概要
【事案の概要】 本件は、「住宅地図」を発明の名称とする特許第3799107号について、特許権者から専用実施権の設定を受けた原告が、被告(住宅地図の企画・作成・販売を業とする株式会社ゼンリン)が提供する電子地図サービス「ゼンリン住宅地図スマートフォン」は本件特許の請求項1の発明の技術的範囲に属するとして、民法709条に基づき損害賠償金1億円(一部請求)の支払を求めた事案である。 本件発明は、公共施設や著名ビル等の検索の目安となる建物を除き、一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略して住宅のポリゴンと番地のみを記載し、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を各ページに分割・区画化し、付属の索引欄と番地・ページ・区画番号を一覧的に対応させる、という構成を有する住宅地図に関するものである。従来の氏名入り住宅地図が大型化・大冊化し、高価格で携帯に不便であった問題を解決し、小型で廉価な住宅地図を提供することをねらいとしていた。 被告が提供するサービスは、ユーザの携帯端末のブラウザが被告指定のウェブサイトから住宅地図情報を受信して端末画面に表示するものであり、スケールバーで「10m」から「90km」まで12種類の縮尺レベルの地図を表示できる。原告は、このうち縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図が本件発明の技術的範囲に属すると主張した。 【争点】 主な争点は、被告地図の文言侵害の成否(構成要件A〜Fの充足性)および均等侵害の成否である。特に、被告地図が構成要件D「該地図を記載した各ページを適宜に分割して区画化し」を充足するかが中心的な争点となった。原告は、電子住宅地図における区画化は必ずしもユーザの目に見える形の仕切りを要しないと主張したのに対し、被告は、区画化とは記号番号を付して番地と対応させ得る形でページを分割し、ユーザが認識できるようにすることであると反論した。 【判旨】 東京地裁(民事第46部)は、原告の請求を棄却した。 裁判所は、特許請求の範囲および本件明細書の記載、本件発明の目的・作用効果に照らし、構成要件Dの「適宜に分割して区画化」とは、ページを見た利用者が線その他の方法および記号番号により、検索対象の建物が所在する区画をページ内の複数の区画の中でどの区画であるかを認識できる形でページを分割することをいうと解釈した。すなわち本件発明は、利用者が索引欄から建物の番地に対応するページ番号・区画番号を把握し、該当ページの該当区画内で目的の建物を目視で探し出すことを前提としており、そのためには利用者が区画を認識できる仕切りが必要であるとした。 これを被告地図についてみると、縮尺レベル「50m」「60m」「70m」の被告地図は、画面を仕切る線等が存在せず、画面上の特定の区画を示す記号番号も付されていないため、利用者は検索対象の建物が所在する区画を認識できない。よって構成要件Dを充足せず、その余の構成要件の充足性を判断するまでもなく文言侵害は成立しない。 均等侵害についても、地図のページが目に見える形で区画に仕切られ、索引欄の情報から迅速な検索を可能にする点こそが本件発明の本質的部分であるから、被告地図はこの本質的部分を備えておらず、均等の第1要件(非本質的部分における相違)を充足しないとして、均等侵害も否定した。 本判決は、電子地図サービスにおける特許侵害の成否について、従来の紙媒体を念頭に置いた特許請求の範囲をいかに解釈すべきかを示したものであり、明細書の目的・作用効果から構成要件を限定的に解釈することで、電子媒体特有の表示形態を発明の技術的範囲外とした点で、電子地図分野の特許実務に参考となる裁判例である。