AI概要
【事案の概要】 本件は、商標「アンドホーム」(標準文字)の商標権者である原告が、被告からの不使用取消審判請求により、第37類「建設工事」についての商標登録を取り消すとの特許庁審決を受け、その取消しを求めた審決取消訴訟である。 本件商標は、平成25年12月27日に設定登録され、第37類「建設工事、建築工事に関する助言」等や第42類「建築物の設計」等を指定役務としていた。被告は、指定役務のうち「建設工事」についての不使用を理由に、商標法50条1項に基づく取消審判を請求した。特許庁は、原告が要証期間(平成26年6月22日から平成29年6月21日までの3年間)内に商標権者・専用使用権者・通常使用権者のいずれにおいても「建設工事」について本件商標を使用していたことを証明できないとして、登録取消しの審決をした。 原告は、元建設会社従業員のKが、原告から本件商標の使用許諾を受け、平成28年1月頃から「アンドホーム」の名称で住宅建築の事業を開始し、同年4月に2件の工事請負契約(工事請負契約1・3)を締結したことを主張した。Kは同年6月9日に株式会社シンプルハウスを設立して屋号を変更したが、それまでの間は「アンドホーム」名義で資金計画表の作成・交付、建築図面の提示、請負契約書の作成・交付、地盤調査の発注等を行っていた。 【争点】 通常使用権者であるKが、要証期間内に取消対象役務である「建設工事」について本件商標を使用したといえるか(とりわけ、請負契約書への標章付記・交付が商標法2条3項8号の「取引書類」への付与・交付に該当するか、また実際の工事着工時には屋号が「シンプルハウス」に変更されていたことが「使用」の認定に影響するか)が主要な争点となった。被告は原告提出書証の成立の真正・信用性を全面的に争い、Kの使用は反復継続性を欠く名目的使用に過ぎないとも主張した。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を認容し、本件審決を取り消した。 まず書証の信用性については、確認済証等の公的書類がKの「アンドホーム」名義での事業遂行という供述の核心部分を裏付けており、Kの供述及び各契約書・資金計画表・建築図面・保証書等は相互に整合しているから、マスキング処理や細部の供述変遷を理由に信用性を否定することはできないとした。 その上で、商標法2条3項8号の「使用」について、工事請負契約書が「建設工事」役務に関する「取引書類」に当たることは明らかであり、Kが平成28年4月7日及び同月24日に本件商標を付した工事請負契約書1・3を作成し注文者に交付した行為は、同号所定の使用に該当すると判断した。被告は実際の着工時には屋号が「シンプルハウス」に変更されていたと主張したが、裁判所は、契約書交付の時点で「アンドホーム」の標章に対し業務上の信用が発生した以上、その後の名称変更によって当該信用が直ちに保護に値しなくなるものではないと説示した。また、被告から原告への警告は平成29年3月であり、Kの使用時期(平成28年1〜6月)から相当遅れていること、使用態様が具体的かつ実質的であることから、名目的使用との被告主張も排斥した。 以上により、通常使用権者Kによる要証期間内の取消対象役務についての本件商標使用が認められ、不使用取消審決は取り消された。商標権の不使用取消審判において、実際の工事着工前に交付された契約書等の取引書類への標章付与が「使用」として評価される範囲を明らかにした事例として実務的意義を有する。