AI概要
【事案の概要】 本件は、同性カップルとして米国ニューヨーク州で婚姻登録を行い、日本でも結婚式を挙げた原告女性が、パートナーであった被告A(女性)と、両者の子をもうけるための精子提供者であった被告B(当時戸籍上男性、後に性別適合手術を受け女性となった)に対し、被告らの不貞行為によって原告と被告Aの同性事実婚関係が破綻したとして、慰謝料等合計637万4000円の連帯支払を求めた事案である。 原告と被告Aは平成21年3月から交際を始め、平成22年2月から同居、平成26年12月に米国ニューヨーク州で婚姻登録証明書を取得し、平成27年5月には日本でも結婚式・披露宴を行った。その後、二人の間で子を育てるため、被告AがSNSを通じて精子提供者を募り、被告Bがこれに応じた。被告Bは性同一性障害で将来的に女性への性別移行を予定していたため、性別変更前に自らの遺伝子を残すこと等を動機として協力した。 ところが、被告Aは平成28年末から平成29年初めにかけて被告Bの自宅に約1週間宿泊する中でキスやペッティングに及び、その後被告Bを選んで原告のもとを去った。被告らは平成30年8月に婚姻し、被告Bは同年中に性別適合手術を受けて戸籍上も女性となっている。 【争点】 争点は、(1)同性カップル間の関係が内縁関係(事実婚)として不法行為法上の保護を受けうるか、(2)被告らの間の行為が不貞行為に当たるか、(3)第三者である被告Bに最高裁平成31年2月19日第三小法廷判決にいう「特段の事情」が認められるか、(4)損害の範囲、である。 【判旨】 裁判所は、まず内縁関係は本来男女間を前提とするものの、価値観の多様化や諸外国の制度、国内自治体のパートナーシップ制度の普及等を踏まえると、同性カップルであっても実態に応じて一定の法的保護を与える必要性は高く、「内縁関係と同視できる生活関係」にあると認められる場合には、不法行為法上の保護に値する利益が認められると判示した。憲法24条1項が「両性の合意」と定めるのは制定時に同性婚が想定されていなかったにすぎず、およそ同性婚を否定する趣旨ではないとも述べている。 本件については、原告と被告Aが約7年にわたり共同生活を送り、米国での婚姻登録、日本での結婚式、双方の親へのカミングアウト、共同の住居となるマンション購入、第三者の精子提供による子の出産計画等から、男女間の婚姻と実質的に変わらない実態があるとして、内縁関係と同視できる生活関係にあったと認めた。 次に、挿入を伴う性行為の事実までは認められないものの、不貞行為は挿入を不可欠な要素とするものではなく、数日間の同宿とキス・ペッティングにより法的保護に値する利益の侵害は明らかであるとして、不貞行為該当性を肯定した。 他方、被告Bについては、当初から関係破綻を意図していたとは認められず、話合いの場でも原告と被告Aの決定に委ねる姿勢を示し、その後の別居・破綻は主として被告Aの選択によるものであるとして、平成31年判決にいう「特段の事情」はないと判断し、離婚(破綻)慰謝料の請求を退けた。 損害については、不妊治療費用や米国での離婚手続費用は相当因果関係なしとして否定し、同性婚関係に基づく保護の程度は法律婚や男女間の内縁関係とはなお差異があることを考慮して、慰謝料100万円と弁護士費用10万円の合計110万円に限り被告Aに対する請求を認容し、被告Bに対する請求は棄却した。 同性カップル間の関係に内縁類似の法的保護を認めた先駆的な下級審判決として注目された事件である。