AI概要
【事案の概要】 本件は、株式会社三菱UFJ銀行が特許出願(発明の名称「アプリケーション生成支援システムおよびアプリケーション生成支援プログラム」)をしたところ、特許庁から拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服審判を請求した事件である。原告は審判係属中に補正を行ったが、特許庁は本件補正を却下した上で「審判請求は成り立たない」とする審決をしたため、原告がその取消しを求めて知的財産高等裁判所に提起した訴訟である。 本願発明は、スマートフォン等の携帯通信端末に固有のネイティブ機能(GPS、加速度センサ、カメラ等)を実行させるためのパラメータに応じて、端末の動きに伴うアプリケーションの動作を規定する設定ファイルを設定し、これに基づいてアプリケーションパッケージを生成するシステムに関するものである。プログラミングスキルがなくてもGUI操作で容易にネイティブアプリを開発できる点に技術的意義がある。 特許庁は、引用発明(ウェブアプリケーションのアドレス等を入力するだけでネイティブアプリを生成する先行特許)に、PhoneGap等の周知技術を組み合わせることで、当業者が容易に発明できたと判断していた。 【争点】 本件補正発明が、引用発明と周知技術(引用文献2〜5及び参考文献1記載の技術、いわゆる被告主張周知技術)の組合せにより、当業者が容易に発明することができたか、すなわち進歩性(特許法29条2項)を欠くかが争われた。具体的には、引用発明に周知技術を適用する動機付けの有無、及び阻害要因の有無が中心的争点となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、特許庁の審決を取り消した。 裁判所はまず、引用発明の課題を、CMSで構築したウェブアプリケーションと同等の機能を持つネイティブアプリを、多大な開発工数をかけずに容易に生成することにあると認定した。引用発明は、既存ウェブアプリのアドレス等を入力するだけでテンプレートの設定情報を書き換えてネイティブアプリを生成するものであり、新たにソースコードを書く必要がない点に本質的特徴があるとした。 その上で、ブログ等の端末の動きに伴う動作を要しないウェブアプリの表示内容を表示するネイティブアプリを生成する場合、設定ファイルを「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」で設定する必要はないと判断した。引用文献1に「ゲームサイト」の記載はあるものの、加速度センサに関する記載はなく、当業者が当該パラメータ設定の必要性を認識するとはいえないとした。 さらに、PhoneGapによってネイティブアプリを生成するためには、HTMLやJavaScript等を用いて新たにソースコードを書く必要があるところ、これは「新たにソースコードを書かずに容易に生成する」という引用発明の課題解決手段と矛盾するものであり、引用発明にPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由があると明確に指摘した。 したがって、引用発明に被告主張周知技術を適用する動機付けは認められず、相違点1の構成に想到することは容易ではないとして、進歩性を否定した特許庁の判断を誤りとし、審決を取り消した。本判決は、先行発明の課題解決手段と矛盾する技術の組合せには阻害要因があるとする判断枠組みを示した点で、進歩性審査における動機付け判断の実務に示唆を与える事例である。