覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、被告人が氏名不詳の共犯者らと共謀の上、営利目的で覚せい剤を日本国内に密輸入しようとした事案である。被告人らは、平成31年4月15日頃(現地時間)、カナダ国内の発送拠点から、覚せい剤(塩酸フェニルメチルアミノプロパン)の白色結晶合計約1997.8グラム、すなわち約2キログラムを隠し入れた郵便物1個を、札幌市内の民泊施設宛てに発送した。同郵便物はカナダの空港からアメリカ合衆国の空港を経由地として積み替えられ、同月17日に千葉県内のD空港へ到着した。その後、東京都江東区内の保税蔵置場に搬入され、翌18日に東京税関職員による検査を受けた結果、覚せい剤が発見され、輸入未遂にとどまった。 被告人は、郵便物に違法薬物が含まれている可能性を相当強く認識しながら、報酬目当てに共犯者からの誘いに応じ、密輸された覚せい剤入り郵便物を民泊施設で受け取る役割(いわゆる受取役)を担った。検察官は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反(輸入してはならない貨物の輸入未遂)で被告人を起訴し、懲役10年及び罰金300万円、覚せい剤8袋の没収を求刑した。 【判旨(量刑)】 札幌地方裁判所は、被告人を懲役9年及び罰金300万円に処し、未決勾留日数中80日を懲役刑に算入した上、押収にかかる覚せい剤8袋を没収した。 裁判所は、まず犯情面について、本件で輸入が企図された覚せい剤の量が約2キログラムと多量であり、国境を越えて複数国を経由する組織的かつ計画的な犯行であって、国内における覚せい剤の害悪拡散の現実的危険が大きかった点を重視し、覚せい剤密輸事案として悪質であると評価した。被告人については、共犯者からの指示に従う従属的な立場にあったものの、現実に郵便物を受け取るという犯行計画に必要不可欠な役割を担っていたと指摘した。さらに、被告人が郵便物中に違法薬物が含まれている可能性を相当強く認識しながら、報酬目当てに安易に誘いに乗ったものであり、動機や経緯に酌量すべき点はないとした。 その上で、同程度の量の覚せい剤を営利目的で輸入する同種事案において受取役を担った被告人と比較しても、本件被告人の刑事責任は少なくとも典型的事例と同程度の重さがあり、覚せい剤密輸事犯に対する一般予防の観点からも強い非難に値すると判断した。他方で、被告人が本件犯行の事実自体を認めていること、実母が社会復帰後の被告人を監督する旨を上申していることといった一般情状を考慮し、求刑懲役10年から1年を減じた懲役9年及び罰金300万円が相当であるとした。 本判決は、複数国を経由する大量の覚せい剤密輸において受取役を担った者に対し、従属的立場にあったことを一定程度考慮しつつも、役割の必要不可欠性と一般予防の要請を重視して厳しい量刑を科した事例として、実務上参考となる。