AI概要
【事案の概要】 本件は、北海道沙流郡内で父母が経営する会社に介護士として勤務し、父母らと同居していた被告人が、実父を殺害しようとしたクロスボウによる殺人未遂事件である。被告人は、自らが抱える広汎性発達障害の特性について周囲の十分な理解を得られないまま長年を過ごしてきたが、平成30年秋頃、父から自己の行動をいつになく厳しく叱責されたことをきっかけに、父には自分の行動を一切認めるつもりはないと思い詰め、同年11月頃までに父に対して殺意を抱くようになった。平成31年2月頃からは殺害方法や凶器について調べ始め、同年4月中旬には凶器となるクロスボウとその矢を購入し、令和元年5月上旬頃、父が会社で一人で仕事をする日を狙って殺害することを決意した。そして同年5月11日、被告人はクロスボウの試し射ちをした上で午後9時頃から会社1階の食堂で父が2階から下りてくるのを待ち伏せし、同日午後9時45分頃、食堂のドアから顔をのぞかせた父(当時59歳)の左側頭部をめがけて殺意をもってクロスボウの矢を発射したが、矢は父の下口唇部を貫通するにとどまり、全治1週間の下口唇裂創を負わせただけで殺害の目的を遂げなかった。検察官は懲役5年を求刑した。 【判旨(量刑)】 札幌地裁は、被告人を懲役3年に処した上で、その刑の執行を5年間猶予し、猶予期間中被告人を保護観察に付した。本件は親子関係に起因する殺人未遂であるため、親に対する殺人未遂事案の量刑傾向を踏まえて刑を量定すべきであるとした上で、被告人は犯行の約半年前に父への殺意を抱いて以降、情報収集や凶器の準備を順次進め、犯行当日にはクロスボウの試し射ちまで行って臨んでおり、周到に計画されたとまではいえないものの、約半年にわたり自分なりに計画を立てて人の命を奪おうとした意思決定は厳しく非難されるべきであるとした。また、至近距離から父の左側頭部をめがけて殺傷能力の高いクロスボウの矢を発射した犯行態様は、当たり所がずれていれば命が失われていた可能性も高く、危険なものであったと評価した。他方、父の怪我が全治1週間の下口唇裂創にとどまり被害結果が軽いこと、広汎性発達障害の特性について周囲の理解を十分得られずに過ごしてきた中、父から普段とは異なる厳しい叱責を受けたことが引き金となり、従来は受け流せていた叱責を受け流せなくなったという被告人の境遇が犯行の背景にあることは被告人のために酌むべき事情であると判断した。これらを総合すると、刑事責任は相応に重く懲役3年の刑は免れないが、当然に実刑とするほど重くはないとし、交通前科以外の前科がないこと、父が処罰を望んでいないこと、北海道内に広汎性発達障害者を支援する団体があり被告人も同団体による支援を受ける意向を示していることなど、社会内更生に向けた条件も認められることから、執行猶予を付して社会内での更生の機会を与えるのが相当と判断した。もっとも、事案の重大性に加え、更生への具体的な道筋が未だ定まっておらず公的機関による継続的な指導・助言が必要な状況にあることを踏まえ、猶予期間は法定上限の5年とし、その期間中の保護観察を付するのが相当であるとした。