地方自治法に基づく境界確定請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 東京湾内に所在する中央防波堤埋立地(内側埋立地約189万㎡、外側埋立地約313万㎡、合計約503ヘクタール)の区境界をめぐり、いずれも東京都の特別区である大田区(原告)と江東区(被告)が争った事案である。中央防波堤埋立地は昭和48年以降、都のごみ処理のため埋立てが進められたが、原告・被告を含む関係5区(中央区・港区・品川区を含む)の間で帰属の争いがあり、暫定的に被告が行政事務を処理する旨の合意がなされてきた。平成14年までに中央区・港区・品川区が帰属主張を取り下げた後も原被告間の対立は続き、平成29年に地方自治法9条1項に基づく東京都自治紛争処理委員による調停が行われたが、同委員が提示した調停案(原告約13.8%、被告約86.2%)を被告は受諾したものの原告が拒否し、同日、原告が同条9項に基づく境界確定訴訟を提起した。原告は中央防波堤埋立地全部を原告に帰属させる線を、被告は第1次的に全部を被告に帰属させる線を、第2次的には原告帰属部分を大幅に縮小する線を主張した。 【争点】 本件境界を画定する基準(江戸時代の区分線に基づく「前段の手法」によるか、諸般の事情を総合考慮する「後段の手法」によるか)及び後段の手法による場合に等距離線の基礎となる水際線の基準時(江戸時代末期か現在か)並びに修正要素として考慮すべき事情である。 【判旨】 東京地裁は、最高裁昭和61年5月29日第一小法廷判決の枠組みに従い、まず前段の手法の適用可否を検討したが、原告が主張する江戸前海と羽根田海の区分線(武州品川洲崎一番ノ棒杭と武州深川洲崎松棒杭を結ぶ線)については、当該海域を羽田浦が単独で排他的に支配・管理していたとはいえず、本件係争地域が羽根田海に含まれていたことも認めるに足りないとして、江戸時代におけるおおよその区分線を知り得る場合に当たらないと判断した。そのうえで後段の手法により、歴史的沿革、行政権行使の実状、行政機関の管轄、住民の社会・経済生活上の便益、地勢上の特性、地積などを総合考慮したが、いずれも決定的な事情とはいえないとし、地勢上の特性に基づき現在行政区域として確定している水際線を基礎とした等距離線を出発点とすべきと判示した。そして等距離線による地積割合(原告約10.7%、被告約89.3%)に対し、外側その1埋立地内のコンテナ埠頭(Y1~Y3バース)及びその東側の港湾関連用地(バンプール・シャーシープール)は同一用途で一体的に利用されるべきことから分断せず原告に帰属させ、逆に東西水路部分は「海の森水上競技場」として一体的に利用されることから被告に帰属させるなどの修正を加えた結果、東京港臨海道路の道路中心線(C’-F線)及び外側その1埋立地の東端線(F-G線)をもって境界とすると定めた。これにより原告帰属地約104.2ヘクタール、被告帰属地約399ヘクタール(比率約20.7対79.3)となり、調停案よりも原告に有利、被告の第2次主張よりも原告に有利な結論となった。本判決は、地方自治法9条に基づく市区町村境界確定訴訟において、形成的に最も衡平妥当な境界線を創設する判断枠組みを具体的に示した点に意義がある。