AI概要
【事案の概要】 北九州市営バスの定期路線バスの運転手として被告(北九州市)に嘱託員として雇用されている原告ら乗務員が、バス運行中に転回場所で発生する「待機時間」について、被告に対し未払の時間外割増賃金および労働基準法114条本文に基づく同額の付加金の支払を求めた事案である。 被告交通局では、バスが一つの系統の終点に到着してから次の系統の始点を出発するまでの時間を「調整時間」と呼び、そのうち遺留品確認・車内清掃・車両移動などに要する時間を「転回時間」として労基法上の労働時間扱いにする一方、残りの「待機時間」については1時間あたり140円の「待機加算」を支給するにとどめていた。以前は調整時間の全部を労働時間として扱っていたが、平成11年4月1日以降、労使協定に基づき現在の取扱いに変更した。平成24年2月には乗務員に対し、転回時間を労働時間とし残りを休憩時間とする旨の通知も発出していた。 本件に先立ち、別の乗務員らが提起した前件訴訟では、第一審が待機時間の全てを労基法上の労働時間に該当するとして請求を全部認容したが、控訴審で和解により終了していた。本件は前件と別組合に属する原告らが、平成25年6月から平成29年6月までの待機時間分の未払割増賃金を請求したものである。 【争点】 第一に、待機時間が労働基準法32条の労働時間に該当するか(乗務員が使用者の指揮命令下に置かれ、労働からの解放が保障されていなかったといえるか)が争われた。原告らは、転回場所で乗客から行き先案内や両替を求められる、待機中にバスを臨機応変に移動させる必要がある、休憩施設がなく私金携帯も禁止されているため場所的に拘束されている等を理由に、待機時間全体が手待時間であると主張した。これに対し被告は、待機時間は休憩時間であることを周知し自由に過ごすことを認めていた、突発業務が生じた際は「遅れ時分等報告書」により事後的に労働時間として申告できる仕組みがあったと反論した。 第二の争点は、仮に未払割増賃金が認められる場合の付加金支払命令の可否である。 【判旨】 福岡地裁は、最高裁平成12年3月9日判決等を引用し、不活動時間が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が労働からの解放を保障されていたか、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価できるかによって客観的に定まるとの一般論を示した。 その上で、就業細則や本件通知、労働組合の要求書の内容、遅れ時分等報告書の運用等からすれば、乗務員は本件請求期間において待機時間が休憩時間として扱われていることを認識していたと認定した。乗客対応や車内温度調整は現実に発生することがあったものの、被告が待機時間を休憩時間として周知し、バスを離れることも許容していた以上、待機時間一般について乗客対応等の役務提供が契約上義務付けられていたとまでは評価できないと判断した。またバスの突発的移動についても、運行指示表や発車順番表の整備、ダイヤ上の配置等に照らし、臨機応変な対応に備えて常時待機することが義務付けられていたとはいえないとした。 もっとも裁判所は、転回時間内に収まらない業務が発生したり、次の運転業務までの間隔が短い待機時間では開始直後から次の業務に備える必要があったことなどを考慮すると、労働時間と評価すべき部分が全く存在しないと割り切ることには躊躇を覚えるとして、各転回場所の性質と待機時間の長さに鑑み、待機時間の1割を労基法上の労働時間と認めるのが相当であると判示した。そして、割増率を119.07%として算定した額から既払の待機加算を控除した未払賃金の支払を命じた。 他方、付加金請求については、労働時間に当たる部分が待機時間全体の1割にとどまること、前件訴訟後に労使協議やダイヤ改正等の改善措置が取られていたこと等から、労基法違反の程度は大きくないとして、付加金の支払を命ずることは相当でないとしてこれを棄却した。 本判決は、バス運転手の転回場所における待機時間について、全部を労働時間とする立場と全部を休憩時間とする立場のいずれも採らず、「1割」という割合的認定により労働時間性を肯定した点に特色があり、公営交通の労務管理実務に一定の指針を示すものとして実務上の意義が大きい。