AI概要
【事案の概要】 本件は、覚せい剤取締法違反(自己使用)の事案である。公訴事実は、被告人が法定の除外事由がないのに、平成29年10月7日頃から同月17日までの間に、大阪府内又はその周辺において、覚せい剤(フエニルメチルアミノプロパン又はその塩類)若干量を自己の身体に摂取して使用したというものである。 同月17日、麻薬取締官らは被告人方に対する捜索差押を実施した。被告人方の門扉はドリルによる解錠作業が開始されたが、途中で被告人が自ら解錠し、捜索が開始された。捜索開始から約1時間半後、洗面所の洗面台付近から覚せい剤在中のチャック付きポリ袋2袋(「本件パケ」)を含む計3袋が発見されたとされ、被告人は現行犯逮捕された。その後、被告人の尿が採取され、覚せい剤の陽性反応を示す鑑定書(「本件鑑定書」)が作成された。 弁護人は、本件パケは麻薬取締官が持ち込んだものであり、これを契機とする現行犯逮捕には重大な違法があるから、これと密接に関連する本件鑑定書の証拠能力は否定されるべきであると主張した。裁判所は、第4回公判期日において、違法捜査が行われた疑いが残り、その違法性は重大であるとして、本件鑑定書等の取調請求を却下する決定をし、検察官の異議申立ても棄却した。 【争点】 本件鑑定書等の証拠能力の有無、及び取調済みの証拠により公訴事実について有罪認定ができるかが争点となった。 【判旨(量刑)】 裁判所は、本件鑑定書等の証拠能力を否定した理由を補足的に説明した。弁護人が主張する違法捜査を疑わせる主たる根拠は、捜索開始後間もない時点で撮影された写真に、本件パケがあったとされる場所に本件パケが写っていないことにあると指摘した。加えて、捜索開始から約1時間半もの間本件パケが発見されなかった経緯には不審な点が残ること、覚せい剤犯罪の性質上、捜査官が早い段階で洗面台を含む水回りを確認するのが自然であること、弁護人が内偵捜査の存在を指摘していた時期(平成29年10月10日)の防犯カメラ映像の画像データが消去され、検察官がその消去時期について求釈明に答えなかったことなどの事情から、違法捜査の疑いを払拭できないとした。 その上で、取調済みの証拠による有罪認定の可否を検討した。被告人は捜査段階及び公判で覚せい剤の自己使用を認める供述をしており、被告人方からは覚せい剤が検出された注射器も発見されていた。しかし、注射器から使用時期を特定することはできず、被告人が公訴事実の期間内に覚せい剤を自己使用したとする自白の真実性を保証するに足りる補強証拠は存在しないとした。 したがって、本件公訴事実については犯罪の証明がないことに帰するとして、刑事訴訟法336条により被告人に無罪を言い渡した。違法収集証拠排除法則を正面から適用し、捜査機関による証拠の持ち込みの疑いを理由に中核証拠の証拠能力を否定した事例として、実務上重要な意義を持つ判決である。