マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号利用法)に基づき個人番号(マイナンバー)の付番を受けた原告ら住民が、国に対し、番号制度は憲法13条が保障するプライバシー権等の人格権を侵害すると主張して提起した訴訟である。 原告らは、番号利用法及び番号制度には、①国民のプライバシーに係る情報が漏えいする危険性、②情報を名寄せ・突合することで本人の意に反した個人像が作成される危険性、③本人への成りすましが行われる危険性など種々の危険があると指摘し、人格権に基づく妨害排除・妨害予防請求として、被告国に対し、個人番号の収集・保存・利用及び提供の差止め並びに被告が保存している原告らの個人番号の削除を求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用として各11万円及び遅延損害金の支払を求めた。 マイナンバー制度は平成25年5月に公布、平成27年10月から施行され、平成28年1月から個人番号の利用が開始された社会基盤的制度であり、全国各地で同種の違憲訴訟が提起されていた。本件はその横浜地裁における判断である。 【争点】 番号利用法及び番号制度が、憲法13条により保障されるプライバシー権(自己情報コントロール権を含む)を侵害し違憲であるか否か、特に①憲法13条が「自己の意思に反して個人に関する情報を情報ネットワークシステムに接続されない自由」まで保障しているか、②番号制度の行政目的が正当であるか、③法制度上・システム技術上の不備により特定個人情報が漏えいする具体的危険が生じているかが争われた。 【判旨】 請求棄却。 裁判所はまず、憲法13条が保障する個人の私生活上の自由として、個人に関する情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由が含まれ、これには収集・保有・管理・利用等の過程でみだりに開示・公表されない自由も含まれると判示した。もっとも、原告らが主張する「自己の意思に反して情報ネットワークシステムに接続されない自由」を一律に保障するものではないとし、制度の行政目的や対象情報の性質等に照らして憲法適合性を判断すべきとした。 その上で、個人番号自体は住民票コードを変換して得られる番号にすぎずプライバシー情報を含まず、紐付けられる特定個人情報も制度導入前から行政機関で管理されていた情報であるから、制度は新たにプライバシーを直接制約するものではなく、不正取得や過失漏えいによる間接的危険を有するにとどまると位置付けた。 そして、①行政運営の効率化、②公正な給付と負担の確保、③国民の利便性の向上という番号制度の目的はいずれも正当であり、個人番号の利用及び特定個人情報の提供は番号利用法9条・19条等に限定列挙されて法令の根拠に基づき行われていると認定した。さらに、特定個人情報保護評価、個人情報保護委員会による監視・立入検査、安全管理措置義務、本人確認義務、広汎な罰則規定、情報提供記録の開示といった法制度上の仕組みと、情報提供ネットワークシステムのインターネット隔離、分散管理、暗号化、機関別符号の使用といったシステム技術上の多重的安全措置が講じられていると評価した。 日本年金機構からの受託業者による違法な再委託等の漏えい事例は存在するものの、漏えいした個人番号のみで本人に成りすますことはできず、個人番号を共通鍵として情報を名寄せ・突合される具体的危険があるとはいえないとして、番号制度に法制度上又はシステム技術上の不備があり具体的危険が生じているとまではいえないと判断し、憲法13条違反を否定して原告らの請求をすべて棄却した。本判決は住基ネット判決(最一小判平成20年3月6日)の判断枠組みをマイナンバー制度にも及ぼした下級審判例として実務上意義を有する。