覚せい剤取締法違反,詐欺未遂,詐欺被告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30あ1224
- 事件名
- 覚せい剤取締法違反,詐欺未遂,詐欺被告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 裁判年月日
- 2019年9月27日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄自判
- 裁判官
- 菅野博之、山本庸幸、三浦守
- 原審裁判所
- 東京高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、特殊詐欺グループによる高齢者を狙った還付金詐欺類似の事案で、被告人は、詐欺既遂事件(被害額350万円)と詐欺未遂事件の各犯行について起訴された。犯行の手口は、架空の老人介護施設の入居権譲渡に関する問題を解決するためなどと偽って、被害者に現金を宅配便で特定のマンションの一室宛てに送付させ、被告人が当該マンションの宅配ボックスから現金在中の荷物を受け取り、回収役に引き渡すというものである。被告人は、他人の郵便受けの投入口から不在連絡票を抜き取り、そこに記載された暗証番号を用いて宅配ボックスを解錠するという不自然な方法で荷物を取り出していた。 第1審は、覚せい剤取締法違反の罪のほか、詐欺既遂・詐欺未遂の両事実を認定し、被告人を懲役4年8月に処した。これに対し被告人が控訴したところ、原審(控訴審)は、詐欺未遂事件については詐欺の故意及び共謀を認めたが、詐欺既遂事件については、詐欺未遂事件の際の事情をもって既遂事件の故意を推認することはできず、既遂事件当時の事情のみから判断すべきところ、被告人が以前から同様の取出しを繰り返していたなどの事情が加わらなければ故意の推認に至らないとして、事実誤認を理由に第1審判決を破棄し、詐欺既遂事件について無罪を言い渡した。これに対し検察官が上告した。 【争点】 特殊詐欺のいわゆる「受け子」について、送金された荷物を宅配ボックスから取り出して回収役に引き渡した行為につき、詐欺の未必の故意及び共犯者との共謀を認めることができるか、とりわけ、被告人の行動の不自然性など荷物取出し時の客観的事情から故意を推認できるかが争点となった。 【判旨(破棄自判)】 最高裁は、原判決を破棄し、控訴を棄却した(第1審判決を維持)。 最高裁は、被告人が、依頼を受けて他人の郵便受けの投入口から不在連絡票を抜き取るという著しく不自然な方法を用いて宅配ボックスから荷物を取り出し、回収役に引き渡していたこと、本件マンションの居住者が第三者である被告人に対し、オートロックや郵便受けの開け方も教えないまま、このような方法で荷物を受け取らせることは考え難いことを指摘した。これらの事情からすれば、被告人は、依頼者が本件マンションの居住者ではないにもかかわらず、居住者を名宛人として送付された荷物を受け取ろうとしていることを認識していたものと合理的に推認でき、送り主が名宛人に届くものと誤信して送付したこと、すなわち自己が受け取る荷物が詐欺に基づいて送付されたものである可能性を認識していたことも推認できると判断した。 最高裁は、事後的な事情を含めて詐欺の故意を推認しうる場合もあるとし、以前から同種の取出しを繰り返していたなどの事実がなくとも、本件の事実関係のもとでは故意の推認は可能であると説示した。また、「依頼者は本件マンションの居住者だと思っていた」旨の被告人の供述は、荷物の取出し方法や通話状況に照らし信用できないとした。結論として、被告人は自己の行為が詐欺に関与するかもしれないと認識しながら荷物を取り出していたと認められ、詐欺の未必の故意及び共犯者との共謀が認められるとし、これを否定した原判決には判決に影響を及ぼす重大な事実誤認があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとして、刑訴法411条3号により原判決を破棄した。本判決は、特殊詐欺の受け子の故意認定にあたり、荷物取出し時の客観的な不自然性から未必の故意を推認する手法を是認したものとして、実務上重要な意義を有する。