課徴金納付命令取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、金融商品取引法159条2項1号(現実取引による相場操縦の禁止)に違反したとして、金融庁長官から課徴金2106万円の納付を命じられた外国法人である原告が、その取消しを求めた事案である。 原告は、自己資金により株式の売買等を行って収益を得ることを業とする外国法人であり、原告代表者を受益者とする信託(トゥー・シティーズ・トラスト)を通じて、別の外国法人エリート・バンテイジと同じグループ(バンテイジ・グループ)に属していた。原告とエリート・バンテイジは別法人であり、トレーダー業務契約により、エリート・バンテイジが中国・上海支店および鄭州支店で合計17名のトレーダーを雇用し、原告の資金を用いて株式売買を行う役割分担が採られていた。 金融庁の認定によれば、これらのトレーダーは平成26年4月から5月にかけて、東証の場間(午前立会終了後から午後立会開始前の注文受付時間)に、約定する意思のない大量の買い注文を発注して寄前気配値段を引き上げた上で、私設取引システム(PTS)で売り注文を出し、有利な価格で約定させる手法により、計45銘柄について相場操縦を行ったとされた。金融庁は、この取引を原告の業務として行われたものと認定し、原告に対し課徴金納付命令を発した。 【争点】 最大の争点は、原告が本件各対象取引を「した者」に当たるかである。被告(国)は、グループ会社間の資本関係、原告が提供するトレーディングシステム(PPro8)の利用、取引利益の原告帰属などを根拠に、トレーダーらは実質的に原告の業務として取引を行っていたと主張した。これに対し原告は、トレーダーはエリート・バンテイジに雇用されており、原告には指揮監督・雇用管理の権限がなく、各契約は実質を伴う役割分担であると反論した。そのほか、一連性、相場変動可能性、誘引目的の各要件充足性も争われた。 【判旨】 東京地裁は原告の請求を全部認容し、本件課徴金納付命令を取り消した。 裁判所はまず、金商法174条の2第1項の「違反者」に法人が当たるためには、当該法人の役員・従業員、または指揮監督・雇用管理等によりこれらと同視し得る者、あるいは法人からの具体的指示を受けた者が、当該法人の計算で相場操縦違反行為を行ったことを要するとの規範を示した。 その上で、本件各トレーダーはエリート・バンテイジと雇用契約を締結しており原告の従業員ではないこと、原告から具体的な取引指示があったとは認められないこと、トレーダー業務契約・雇用契約・トレーダーロケーション契約は各種リスク回避の観点から経済的合理性を有し、利益も業務内容に応じて各関係者間で相応に分配されているから形式的・名目的なものとはいえないこと、トレーダーに対する直接の指揮監督権限はエリート・バンテイジ側にあり、取引管理もオーナー兼マネージャーやトゥルー・ノース・バンテイジ所属のリスク・アナリストが担っていたことを認定した。原告代表者がグループ各社の役員を兼任し影響力を有していたとしても、原告とエリート・バンテイジは別法人で資本関係もなく、原告代表者としての地位に基づき直接・間接の指揮監督権限を行使できるものではないとした。 結論として、原告には本件各トレーダーに対する指揮監督・雇用管理等の権限がなく実態もなかったと認められ、トレーダーらを原告の従業員と同視することはできず、原告は本件各対象取引をした者に当たらないと判断した。したがって、その余の争点(一連性、相場変動可能性、誘引目的)を判断するまでもなく、違反者になり得ない原告に課徴金納付を命じた本件決定は金商法174条の2第1項に反し違法であるとして、これを取り消した。 本判決は、グループ会社を通じて国際的に行われる株式取引について、法人格の別を重視し、契約関係の実質性と指揮監督・雇用管理の実態を踏まえて課徴金納付命令の名宛人適格を厳格に判断した点で、越境的な資産運用スキームに対する相場操縦規制の射程を画する意義を有する。