厚生年金保険年金決定処分取消等請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30行ウ15
- 事件名
- 厚生年金保険年金決定処分取消等請求事件
- 裁判所
- 札幌地方裁判所
- 裁判年月日
- 2019年9月27日
- 裁判官
- 孝、萩原孝基、佐藤克郎
AI概要
【事案の概要】 原告は、夫である亡Aが死亡したとして、厚生労働大臣に対し遺族厚生年金の裁定請求を行った。厚生年金保険法58条1項1号は、被保険者が65歳未満で死亡した場合、死亡日の前日において死亡月の前々月までの1年間に国民年金保険料の未納期間がないこと(直近1年要件)等を満たせば、被保険者期間が300月未満でも300月として計算した遺族厚生年金を支給する旨定めている。 亡Aは厚生年金被保険者資格の取得・喪失を繰り返していたが、平成26年2月6日に年金事務所を訪れ、被保険者記録照会を受けた際、交付された照会書面には同年3月分まで「無資格」(厚生年金被保険者のため国民年金保険料を納付する必要がない状態)を示す「/」の表示がされていた。ところが亡Aはその後同年2月28日に勤務先を退職して厚生年金被保険者資格を喪失し、同年3月分の国民年金保険料を納付する必要が生じたが、これを納付しなかった。このため厚生労働大臣は、直近1年要件を満たさないと判断し、同項1号ではなく4号(被保険者期間300月みなし規定の適用なし)に基づき、実際の被保険者期間184月を基礎とする支給決定処分をした。 原告は、照会書面の表示は誤表示または不合理・不正確なもので、亡Aはこれを信頼して保険料未納となったのだから、本件処分は信義則違反で違法であると主張し、処分取消し、300月基礎の支給決定の義務付け、及び国家賠償法1条1項に基づく約702万円の損害賠償を求めた。 【争点】 本件照会書面の「無資格」表示が誤表示または違法な公権力の行使にあたるか、亡Aが当該表示を信頼して保険料未納に至ったといえるか、本件処分が信義則に反して違法となるかが主な争点となった。あわせて、支給決定の義務付けの訴えの適法性も本案前の争点として争われた。 【判旨】 札幌地方裁判所は、原告の請求をいずれも退けた。まず、国民年金被保険者記録のオンラインシステムでは、年度途中の照会では年度末までの将来部分について照会時点の資格に基づく見込みが表示される仕組みとなっており、平成26年2月6日時点で厚生年金被保険者であった亡Aに対する「無資格」表示は、当時の合理的な見込みを示したにすぎず、誤表示にはあたらないと判断した。その後亡Aが3月分の保険料を納付する必要が生じたのは、照会後の同年2月28日に自ら退職したという事後的事情によるものである。 また、亡Aが3月分保険料を納付不要と誤信していたとの事実を認めるに足りる証拠はなく、むしろ亡Aはその後、3月から5月までを対象とする国民年金保険料免除申請を行い、4分の3免除の承認通知と3月分を含む納付書を受領していたと推認されるのに、3月分のみ納付していない。このことから、亡Aは3月分についても納付の必要性を認識した上で、何らかの理由により自ら納付しないことを決断したと認定された。 以上から、本件処分は信義則違反にあたらず適法であり、取消請求と国家賠償請求はいずれも理由がない。また、本件処分が適法である以上「取り消されるべきもの」(行政事件訴訟法37条の3第1項2号)にはあたらず、300月基礎の支給決定を求める義務付けの訴えは訴訟要件を欠き不適法として却下された。本判決は、年金事務所における被保険者記録照会の表示が将来部分につき見込み表示にすぎないことを明確にし、その後の事情変更によって保険料納付の必要が生じた場合の自己責任原則を示したものとして、年金実務上の意義を有する。